賃金請求事件(システムメンテナンス事件)
札幌地裁令和2年11月9日判決(労働判例1267号50頁)
札幌高裁令和4年2月25日判決(同39頁)
1 ポイントは何か?
- 労働基準法上の労働時間。
- 不活動待機時間。
- 割増賃金。
- 付加金。
- 36協定
2 何があったか?
Yは、機械式駐車装置の販売等を目的とする会社である。Xは、Yと労働契約を締結し、機械式駐車場のメンテナンス等を担当している。
Xの勤務時間は、午前8時30分から午後5時30分。他に、待機(ベル)の当番がある。Xの賃金は、基本給のほか、皆勤手当、時間外手当、休日出勤手当、深夜勤務手当や、夜間・休日の当番手当(ベル手当)などである。Xの割増賃金の基礎となる時給は、(基本給+皆勤手当+ベル手当)÷月合計労働時間で算出されていた。
Xは、夜間の不活動待機時間が無給であった。
そこで、Xは、Yに対し、夜間の不活動待機時間の未払割増賃金、及び、既払割増賃金の計算間違による未払分の合計金1185万0044円及び遅延損害金年6%、並びに付加金963万円及び遅延損害金年6%の支払を求めて訴えを提起した。
なお、Yが労働基準監督署に出していた36協定には、労働者の過半数を代表する者との間で交わされていなかったという問題もあった。
3 裁判所は何を認めたか?
地裁で、原告Xは、敗訴。ただし、既払割増賃金の計算間違分として52万4315円及び遅延損害金は認められた。
Xが負担する訴訟費用割合は、20分の19。
最高裁判例によると、労働基準法所定の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、客観的に定まる(最高裁平成12年3月9日第一小法廷判決、民集54巻3号801頁、労働判例778号11頁)。不活動待機時間において、労働契約上の役務の提供を義務付けられていると評価される場合は、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているものといえる(平成14年2月28日第一小法廷判決、民集56巻2号361頁)。
Xが控訴した。
高裁では、不活動待機時間の一部が労働時間に加えられ、金111万1884円及び遅延損害金が認められた。
Xが上告、及び、上告受理申立を行った。
4 コメント
労働審判の申立はせず、地裁への訴訟提起が行われた。
労働基準法には、労働時間についての定義規定がないが、それを補う最高裁判例がある。
不活動待機時間が労働時間として認められるか否かは、さまざまな事例があるだろう。一概には言えない。労使交渉により定めることもできるので、労働契約、就業規則、労働協約等で明確にしていく努力も必要だろう。
36協定がなくても、残業代や割増賃金は発生する。
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