知的財産高等裁判所令和6年12月24日判決
令和6(ネ)10052発信者情報開示請求控訴事件(著作権、民事訴訟)原審 東京
地方裁判所
1 ポイントは何か?
いわゆるプロバイダ法の令和3年改正法の意味
2 何があったか?
Aら(いずれも氏名不詳者)は、ビットトレントネットワークに、ピアとして
参加し、Bが著作権を有する動画の複製ファイルを構成するピースを取得し、
ピア同士がハンドシェーク、UNCHOKE通信等の手続きを経て本件動画複製フ
ァイルを構成するすべてのピースを取得できる状態にした。
Bは、Aらの行為は本件動画複製ファイルを送信可能化し、Bの動画の著作権を
侵害したとして、Aらに損害賠償請求をする為に、ビットトレントネットワーク
を介在するプロバイダーCに対し、Aらの発信者情報の開示を求めた。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する
法律(以下、「法」)5条1項は「権利の侵害に係る発信者情報」の開示請求
権を定め、著作権法23条1項9項イ又はロは自動公衆送信しうるようにする
こと」を著作権侵害と定める。
BがAらの発信者情報の開示を求めた件数は、本判決別紙発信者情報目録による
と送信可能化権が侵害された動画は少なくとも328件あり、各IPアドレスを
各発信時刻頃にCから割り当てられていた契約者Aらに関する①氏名又は名称
、②住所、③電子メールアドレスである。割り当てられていたIPアドレスと各
発信時刻の件数は不明であり、これからAらの人数を知ることはできない。し
かし相当の数に上るだろう。
3 裁判所は何を認めたか?
東京地方裁判所はBが請求したこれらの発信者情報のすべての開示を認めたと
思われる。これに対しCが控訴した。
知的財産高等裁判所はこれらの内、動画は263、300を除外し、残りすべ
てについて①、②の開示を認め、③については23件を除外した。
知的財産高等裁判所の判断の理由は、争点1「権利の侵害に係る発信者情報」
の該当性について、⑴権利侵害性の有無についてはピア同士が互いに関連共同
して不特定の者の求めに応じて送信しうるように電気通信回線への接続を行っ
たのであるからBの「送信可能化権」が侵害されており、⑵UNCHOKE通信は
当該ピアのユーザーが特定のファイルの少なくとも一部を送信可能化したこと
を示し、その同一人物である蓋然性が認められることから「権利の侵害に係る
発信」であるとする。令和3年法律第27号改正により特定発信者開示請求権
が新たに創設されたとする。
争点2「特定電気通信該当性」についてはファイルのピースをダウンロードす
る行為そのものを問題にしているのではないとする。
争点3「調査の信用性」については、Cは別件の発信者情報開示請求訴訟では
IPアドレスとタイムスタンプの組み合わせの結果存在しない通信が多数含ま
れていた旨主張した。本件では特に具体的な敵がなくCの主張採用できないと
する。
4 コメント
権利侵害に「係る」の範囲、IPアドレスと発信時刻の組み合わせから存在し
ない通信もありうるなどの問題がある。
令和3年法律第27号改正により特定発信者開示請求権の要件が新たに創設さ
れたとする認定は、近接する最高裁判所第二小法廷令和6年12月23日判決
093648_hanrei.pdfと異なる判断である。しかし、改正された要件が合理的であ
れば、遡及適用も不合理とは言えない場合があろう。
以上
(インターネット専門用語)
アカウント:⑴口座⑵得意先⑶スマホやパソコンでインターネットにログイン
する権利でIDやパスワードで構成する。
ID番号:複数の利用者を識別するための英数字等による符号。
パスワード:正式の利用者であることを通知する任意の文字列。
ログイン:コンピューター・ネットワークの使用をアカウントを用いて開始す
ること。
ログアウト: その使用を終了すること。
コンピューター・ネットワーク:複数のコンピューターを通信回線を介して接
続し、データのやり取りを行えるようにしたもの。
プロバイダー:インターネットへのIP接続サービスを提供する事業者。
コンピューター犯罪:刑法上、電磁的記録の不正作出罪(161条の2)、コン
ピューター・システムの業務妨害罪(234条の2)、コンピューター利用の利
得罪(246条の2)、その他157条1項、158条1項、163条の
2~5、168条の2、168条の3、175条、258条、259条等。