【交通事故:普通乗用自動車が車いすで通行中の人に接触した事例】

損害賠償請求事件

さいたま地裁平成27年3月20日判決

(判例時報2255号96頁)

1 ポイントは何か?

 ⑴ 注意義務:普通乗用自動車が、信号がなく、一時停止規制のある交差点に進入する際の、自動車運転上の注意義務。

⑵ 過失相殺:被害者車いす側の過失の有無。

⑶ 素因減額:被害者に車いすを使用する既存障害があっても本件交通事故による後遺障害は認められるか。

2 何があったか?

⑴ Aは昭和54年12月13日、第9胸骨圧迫骨折による脊髄損傷の傷害を負い、体幹及び両下肢の機能全廃の障害が残存し、以後、車いすを使用している。

⑵ 平成21年10月29日午後7時20分頃、信号機のない交差点で、Aは、北方から南方に直進しようとした。

⑶ Bは、携帯電話を使用しながら、普通乗用自動車を運転し、一時停止規制のある東方の道路から、一時停止せずに同交差点に進入し、Aに接触して、転倒させ
た。

⑷ Bは、B運転の車両について、C損害保険株式会社との間で、自動車損害賠償責任保険契約(自賠責保険)を締結し、D損害保険株式会社との間で、自動車保険
契約(任意保険)を締結していた。

⑸ Aは、本件交通事故日から同25年4月4日まで医療機関CないしKに通院し、実通院日数は延べ349日であった。

⑹ Bは、Aに、任意保険により、治療費、交通費、旅行のキャンセル料金、クリーニング代、コピー代及び車いす代として、合計187万余円を支払った。

⑺ Aは、本件事故により、①頸部痛、②両上肢の痛み・しびれの後遺障害が残存したので、C社に損害賠償請求をしたが、同社は、Aが車いすを使用するように
なった既存障害は、神経系等の機能に係る最上位の障害であるから、本件事故により後遺障害が残存したとしても、障害の程度を加重したものとは評価できないとし
て、賠償を拒否した。

⑻ Aは、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構の紛争処理委員会に調停の申立てをしたが、同委員会は、C社と同一の結論であった。

⑼ Aは、B及びCを被告として、さいたま地裁に損害賠償請求訴訟を提起した。

Bに対する請求額は、後遺障害等級表14級9号の後遺障害慰謝料110万円、労働能力喪失割合5%、労総能力喪失期間5年間の計算に基づく逸失利益110万
円、通院慰謝料123万余円を含む損害賠償金の合計金額から任意保険の既払金187万余円を差引いた残額460万余円、及び、これに対する交通事故日から完済まで
の年5%の割合による遅延損害金である。

内金75万円及びこれに対する遅延損害金については、C社についても、自賠責の保険金額の限度において、債務が発生するので、Bと連帯して、支払うよう求めた。

3 裁判所は何を認めたか?

  A勝訴。勝訴額は、Bに対し、414万余円と遅延損害金。内金75万円と遅延損害金について、B及びCの連帯責任。

症状固定日が、少しはやまったことと、既払額が増えていたことが金額減少の理由である。

⑴ 裁判所は、Bには、本件交差点に進入するに際し、一時停止規制に従って、一時停止し、通行者の有無及び動静に留意し、安全を確認しながら進行すべき自動車運
転上の注意義務があるのに、携帯電話を使用していたことから、前方不注視となり、一時停止せずに本件交差点に進入するという注意義務違反により、本件事故を発生さ
せたと認定した。

⑵ Bは、AがBの運転車両を見落として交差点に進入した過失2割を主張したが、Aの進行方向の左側に、高さ1・7mのブロック塀があり、見通しが悪く、車いす
のAがBの運転車両に気づくことは容易ではなかったとして、過失相殺を認めなかった。

⑶ Aは、①頸部痛と②両上肢の痛み・シビレが残ったと主張した。これに対し、BおよびCは、後遺症とは言えない旨主張した。しかし、裁判所は、①は、頸椎捻
挫により発症したものとして、②は、Aが頸部痛をカバーしようとして腕や手に過度に力が入り、筋肉の緊張が生じて結果的に手のシビレにつながったとして、いずれ
も本件交通事故との相当因果関係を認定した。

ところで、自動車損害賠償保障法施行令2条2項は、既存障害と「同一部位」について障害の程度を加重した場合の損害から既存障害分を差し引くことを定めている。

BおよびCは、労働基準法及び労働者災害補償保険法における後遺認定基準が準用されるべきであり、同基準によると、Aの既存障害は、害等級表上の神経系統の機能
又は精神の障害の最上位等級の第1級第1号に該当し、本件交通事故による後遺症は下位の障害に当たるので、同項の「同一部位」に当り、同項の加重事由には該当しな
いと主張した。

しかし、裁判所は、同項にいう「同一の部位」とは、損害と自動車損害補償一体的に評価されるべき身体の類型的な部位をいうと解すべきであるとした。Aの既存障
害は胸骨の神経の障害であり、第9胸骨圧迫骨折による脊髄損傷の支配領域はT9であり、運動機能としては腹筋・傍脊性筋以下に障害が残り、知覚障害としては臍よ
り少し上の部分以下に障害が残るため、頸椎や上肢に運動障害又は知覚障害を残すことはない。本件交通事故による後遺障害は頸椎の神経の障害であって、支配領
域はC3ないしT2であり、T9とは支配領域をことにしている。このように、それぞれ異なる神経の配分領域を有していることから、同一部位とは言えないと認定し
た。

4 コメント

⑴ 交通事故を起さないためには、JAFが毎月送ってくる雑誌にある「危険予知」をよく読み、5回分くらい取っておいて、運転をする直前に、さっと見て、道路上の交通の動きに注意するシャドー・トレーニングをしておくとよいと思います。

⑵ 車いすの人も、交差点は気を付けなければなりません。交差点角のブロック塀の影から、一時停止無視で飛び出してくる車があることにも、きをつけなければなりません。

⑶ Aの本件交通事故による後遺症が、自動車損害賠償保障法施行令2条2項の「同一部位」に当たるか否かについて、本件判決は、労働基準法及び労働者災害補償保険法の認定基準の、「同一部位とは同一系列の範囲内をいう」とされているのを準用せず、自動車損害賠償補償法16条1項が、交通事故による身体障害から生じた損害賠償請求権全体を対象としていることから、同法施行令2条2項の「同一部位」とは、「損害と一体的に評価されるべき身体の類型的な部位をいう」と判断されたこと
は、車いすの人たちが、積極的に活動し、社会参加を行うためにも、適切であったと思います。

なお、労災の取り扱いの方も、その後、変更されたようです。

<https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/061013-2.pd
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