【刑事事件:証券会社の社員が職務上知った情報を知人に利益を得させる目的で伝達した事件】

金融商品取引法違反被告事件

 大坂地方裁判所令和2年6月8日判決

 (裁判所HP、判例検索)

089527_hanrei.pdf (courts.go.jp)

1 ポイントは何か?

⑴ 金融商品取引法197条の2第15号

⑵ 同法167条の2第2項

金融商品取引法 | e-Gov法令検索

2 何があったか?

⑴ Xは、A社(証券会社)の、顧客会社に対し、企業買収や資金調達に関する提案等の業務を行うR部署に、ジュニア(ファイナンシャルアナリスト)として勤務していた。

⑵ C社は、オフィス家具等の製造・販売を主に行っている上場会社であり、D社は、C社が株式の過半数を保有する子会社で、上場会社であった。

⑶ C社は、A社との間で、平成28年4月12日、D社を完全子会社化するためのTOBに関する、ファイナンシャルアドバイザリー契約を締結した。

⑷ 本件TOBは、同年8月3日に公表された。

⑸ Xと大学入学以来の友人であるEは、同年7月28日午前2時16分頃から、D株の購入を開始し、本件TOB公表までの間に、合計22万1000株を保有するに至り、本件TOB公表後8月4日までの間にそのすべてを売却し、D株の一連の取引により、合計1539万9400円の利益を得た。

3 裁判所は何を認めたか?

⑴ 検察官は、Xを、金融商品取引法197条の2第15号、167条の2第2項違反として起訴した。

金融商品取引法197条の2第15号は、同法197条の2第2項違反に刑事罰を科するものであり、法定刑は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金又は併科である。この範囲内で、検察官は、懲役2年及び罰金200万円を求刑した。

  宣告刑は、懲役2年及び罰金200万円であり、懲役刑について裁判確定の日から3年間の執行猶予とし、罰金を完納できないときは、1日1万円として労役場留置するとした。

⑵ 罪となるべき事実

大阪地裁は、C社が決定した、D社の株式の公開買付の実施に関する事実を、Xが、A社の従業員として、平成28年7月27日ころ、その職務に関し知ったところ、EにあらかじめD株を買い付けさせて利益を得させる目的で、同日、東京都内において、Eに対し、電話により伝達し、Eにおいて、法廷の除外事由がないのに、F社(証券会社)を介し、東京証券取引所において、D株を買い付けた、と認定した。

以下は、上記犯罪事実の認定上、問題となった点です。

⑶ 平成28年7月22日の事実経過

   A社R部署のジュニアBは、同日午後4時11分ころから、15分にかけて、自席で、D者側のファイナンシャルアドバイザーであるKと、本件TOBにおけるD株式の買付価格について通話した。

   Xの席は、ジュニアBの席から数メートル程度しか離れていなかった。

   Xは、同日、午後4時14分頃、22分頃、26分ころに、それぞれR部署の内部文書であるスタッフィングシートを閲覧した。また、Xは、34分ころから、「親子上場企業」という単語でインターネット検索を行い、「親子上場を行っている企業一覧」という記事を閲覧した。

   スタッフィングシートのジュニアBの欄には、本件TOBの案件名が隠語で記載されていた。「M&A」「親子上場解消、完全子会社化、親会社側FA」との基本的な内容の記載は、5月末頃からあったと考えられる(Bも同旨の供述をしている。)。

7月中旬頃のR部署の朝会で、部長Lが、親子上場案件について話した事実はなく、Xのインターネット検索は、それが契機になったとはいえない。

Xは、この段階では、まだ、本件TOBの関係会社がC社及びD社であることを把握していない。

⑷ 平成28年7月27日の事実経過

 Bは、午後7時12分頃、自席においてディレクターHと、本件TOBに関する会話を5分46秒程度行った。

 Ⅹは、13分ころ、自席において、「C‘」又は「C」などの単語でインターネト建策を行い、14分ころ、C社の有価証券報告書を閲覧し、20分ころ、「C 子会社」という単語で、21分には「D 株価」との単語で、それぞれインターネット検索を行った。

C社の平成27年事業年度における有価証券報告書(3月23日提出)には関連企業D社のC社における議決権所有割合が52.6%であること等が記載されている。

Bは、遅くとも平成28年7月27日までに、スタッフィングシートに隠語により、本件TOBの公表予定日を記載していた。

Xは、Bの7時台の通話で、本件TOBの関係会社をC社とD社であると知り、公表日をスタッフィングシートで認識するに至ったと考えて矛盾はない。インターネット検索は、本件TOBの関係会社の一方を把握したXが、もう一方を特定するために行ったものと考えられる。

Xは、ジュニアJから、「C社が忙しい」との発言を聞いたことがCの検索を開始したきっかけである旨主張したが、Jは、そのような発言はしていない旨供述している。

 Xは、この日には、本件TOBの関係会社がC社及びD社であることと、公表日を把握した。

4 コメント

「ファイナンシャルアドバイザリー契約」とは、聞きなれない言葉ですが、M&AやTOBなどの相談に乗り、必要な事務手続きを行うための業務委託で、企業が、証券会社などと締結するのが一般的のようです。

 「アドバイザー」は、企業の相談役のような立場の人で、代表取締役経験者などが、内部の相談役として残るような場合でしょう。

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