【損害賠償:建築物の建築主が、建築主事の違法な建築確認によって改修工事費用の損害を被ったとして京都府に損害賠償請求した事件】

1 ポイントは何か?

  ビジネスホテルの建築主が、一級建築士に依頼して設計し、京都府の土木事務所に建築確認申請をしたところ、土木事務所の建築主事が建築士が作成した構造計算書に耐震偽装があったのに看過して建築確認をした。建築主は、建築主事の過失による建築確認により、改修工事費用の損害を被ったとして、京都府に対して、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求をした。裁判所は、土木事務所の建築主事に建築主の財産権を保護する責任はなく、建築主事が職務上通常負うべき注意義務に違反しなければ違法とは言えず、構造計算の偽装の責任は、第1次的に建築士にあるとして、建築主の請求を棄却した。

2 何があったか?

  Ⅹは、一級建築士Aに設計依頼してビジネスホテルの建設を計画し、Aは、一級建築士Bに構造計算を依頼した。Xは、平成13年8月24日、Aを代理人として京都府峰山土木事務所に建築基準法(平成14年改正以前のもの)6条1項の建築確認の申請書を提出した。Xは、同年9月10日、同土木事務所の建築主事Cから建築確認済証の交付を受けた。そして、中間検査、完了検査を受け、建築を終了した。その後、Bが作成した構造計算書に耐震偽装があることが判明した。Xは同土木事務所から建築済のビジネスホテルの改修を命じられ、改修計画書を提出し、改修を実施した。

  Xは、京都府に対して、国家賠償法1条1項に基づき、改修工事費相当額の損害賠償請求をした。

3 裁判所は何を認めたか?

  X敗訴。

土木事務所の建築主事に建築主の財産権を保護する責任はなく、建築主事が職務上通常負うべき注意義務に違反しなければ違法とは言えず、構造計算の偽装の責任は、第1次的に建築士にあるとした。

  補足意見で、田原裁判官と寺田・大橋両裁判官との間で、国家賠償責任は、対物的責任として、行政主体が責任を負うべき公務員の注意義務ないし違法性のレベルは、その相手方が誰かによって異ならないか(田原説)、異なるか(寺田・大橋説)という論争が行われた。本件では、損害賠償の請求者が、建築主か第三者かによって、建築主事に要求される注意義務や違法性のレベルが異なるか否かという問題である。

4 コメント

  建築主は、信頼できる建築士に依頼しなければならないし、建築士の責任は重いといえる。

  土木事務所の建築主事が、職務上通常用いる注意で発見できる申請書類の不備を看過して建築確認をしたとすれば、建築士とともに不法行為責任を負うこともありうる。

  これとは別の問題であるが、建築士が完璧な仕事をしているのに、建築主事が故意または過失によって建築確認を出さないために、建築主に損害が生じたという場合は国家賠償請求ができるだろう。

判例

平成22年(受)第2101号  損害賠償請求事件
最高裁判所平成25年3月26日判決  原審、大阪高等裁判所