1 ポイントは何か?
裁判所が、原告及び被告双方の主張を対照し、公務労働者の自殺の原因が何であったかという事実問題、そこに介在する軽度うつ病の発症という医学的問題、そして使用者の安全配慮義務違反や国家賠償法上の違法の有無等という法律問題等を綿密に検討し、判断した事例である。
2 何があったか?
名古屋市交通局の若年嘱託職員aが自殺し、aと二人暮らしの母Xが、名古屋市Yを被告として、aが自殺したのは上司hのaに対するハラスメントによるとして国家賠償法に基づく損害賠償請求をした。aは裏アカウントに投稿を残していた。
Yはこれを争った。
上司のハラスメントの有無、ハラスメントを受けたaがうつ病になったか、使用者に安全配慮義務があるか、幹部職員により業務上の指導としてaに対し過度の追及や糾問が行われたか、それらは国家賠償法上違法であるか、使用者や使用者の権限を行使する幹部にとってaの自殺は予見可能であったか、自殺との相当因果関係があるか、損害額の計算における基礎収入や死亡慰謝料の考え方、過失相殺や信義則上の減額などが問題となった。
3 裁判所は何を認めたか?
X勝訴。
hのaに対するハラスメントは職場の他の上司や同僚にも認識されていた。
aは世界保健機構(WHO)が定める国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)の診断ガイドラインによる軽症うつ病エピソード(F32.0)を発症したと認められる。
使用者には安全配慮義務がある。
幹部職員やhにより業務上の指導として過度の追及や糾問が行われた。それが引き金となって、aは帰宅後自殺するに至った。
使用者や使用者の権限を行使する幹部にとって、当時の状況により、aの自殺は予見可能であった。
したがってYに安全配慮義務違反があり、国家賠償法上違法であり、aの自殺との相当因果関係がある。
損害額の計算における基礎収入は賃金センサスではなく交通局の給与一覧表の平均賃金による。
4 コメント
ハラスメント自殺の相当因果関係論は、医学的知見、予見可能性の有無など問題が多く難しい。予防が大切である。
以上
判例
名古屋地方裁判所平成27年(ワ)第4988号損害賠償請求事件、令和2年2月17日判決