【婚約破棄:婚約の不当破棄・暴力を理由に、財産的損害及び慰謝料を請求した事件】

損害賠償請求事件

神戸地裁平成14年10月22日判決

(最高裁HP、裁判例検索)

099203812779791949256C940005FF4 (courts.go.jp)

1 ポイントは何か?

⑴ 婚約の成立。

⑵ 婚約の不当破棄及び暴力の不法行為

⑶ 損害。

⑷ 過失相殺の抗弁。

2 何があったか?

  • 甲社に勤務するXとYは、平成10年9月13日、甲社の友人の紹介で知り合った。
  • YはXに対し、同月19日、結婚を前提に交際してほしいと申し入れた。
  • Xは、Yより10歳年上で、先夫との間に長女がいた。XとYは、お互いを婚約者として、実家や知人に紹介した。
  • 平成12年7月8日、XとYが相談の上、Xが買主となって、Xがローンを組み、新居用に中古物件を購入した。そして、リフォーム、家具類の購入を済ませ、同年10月初旬の入居を予定していた。
  • ところが、同年9月頃、XとYは、口論となって喧嘩をし、YからXへの連絡が途絶えた。
  • 同年10月6日、XとYはホテルで話し合ったが、その際、XはYから暴力を振るわれ、同月9日、Xは再度話し合おうとしたが、またYから暴力を振るわれた。
  • Xは、同日、甲社の上司に相談し、同月10日、病院で診察を受け、左上腕・右大腿及び下顎部打撲等により加療5日の診断を受けた。
  • Xは、警察に被害届を出した。
  • Xは、同月17日以降、精神科に通院中であり、同月23日付で、状況因性うつ状態との診断を受けた。
  • Xは、同年11月10日、本訴を提起した。
  • Xは、平成13年1月31日付で、甲社を退職したが、平成14年4月22日、別の会社に就職した。その後、他の男性と交際中。

XのYに対する請求額は金1000万円、及び、これに対する平成12年10月6日から支払い済まで年5分の割合による遅延損害金。

理由は、

⑴ XとYの婚約の成立は、平成10年9月19日。

⑵ア Yによる婚約不当破棄は、平成12年10月6日。

イ Yによる暴行は、同日及び同月9日。

⑶ Xが被った損害は、

ア 新居購入代、リフォーム代、仲介手数料、家具購入代、携帯電話使用料、休業損害、診断書作成料等2016万2688円、

慰謝料1000万円及び弁護士費用300万円等

合計金3316万2688円であるが、その内金1000万円を請求する。

Yは、これらをすべて争った。

3 裁判所は何を認めたか?

⑴ 婚約の成立については、

ア 婚約は、結納の授受その他一定の形式は必要ではないが、将来の婚姻という身分関係形成を目的とした合意として、当事者の自由意思が強く尊重されるべき分野の事柄であることに照らすと、結納その他慣行上婚約の成立と認められるような外形的事実がない場合には、その認定は慎重になされなければならない、とした。

イ そして、YのXに対する交際の申し入れから、最終的にX名義で不動産を購入するに至るまでの経過及び理由を詳細に認定し、かつ総合的に考慮し、Xが本件不動産を購入したころまでには、XとYの関係は、互いに将来夫婦として共同生活を営む合意が形成されており、婚約と言う法的保護を与えられるべき実質を有する段階に至っていたというべきであるから、両者間に婚約が成立していたと認めるのが相当である、とした。

⑵ 婚約の不当破棄及び暴行の不法行為については、Xの主張の通り認定した。

⑶ 損害については、

ア 新居購入代金、リフォーム代、仲介手数料、家具購入代等については、対価に相当するものを取得しており、婚約の破棄によって財産的効用・価値の全部ないし一部が喪失するという関係にはなく、具体的な損害が生じていない、あるいは、具体的な損害額が不明であると言わざるを得ない。したがって、これら財産的損害の賠償請求には理由がなく、慰謝料の算定に当たって斟酌するのが相当である、とした。

イ 携帯電話使用料については、両者間の交際及び婚約の成立によりその目的を達成しているものであるから、たとえその後に本件婚約の不履行があり両者間の関係が解消されることになったとしても、本件婚約不履行と相当因果関係のある損害とは認められない、とした。

また、他の目的での使用料が含まれているとしても、本件婚約の破棄と相当因果関係のある損害に当らない、とした。

ウ 休業損害については、受診日、負傷の程度、甲社の業種等考慮すれば、本件不法行為により必ずしも休業が必要であるとは認めがたく、まして約1か月の休業が必要であるとは認められない、とした。

Xは、態度が冷淡になったYとの関係で悩み、平成12年10月5日から甲社を欠勤するようになったとも主張するが、仮にそのような事実があるとしても、相当因果関係を肯認するには足りない、とした。

エ 診断書作成料については、認めるに足りる証拠がなく、そもそも本件不法行為と相当因果関係のある損害とも認められない、とした。

オ 慰謝料については、本件婚約破棄及び本件不法行為によりXが精神的苦痛を受けたことは容易に推認できるとし、本件に現れた一切の事情に照らし、これを慰謝すべき金額は、300万円を以て相当と認める、とした。

カ 弁護士費用については、本件に現れた一切の事情に照らし、Yにより婚約破棄及び本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は30万円をもって相当と認める、とした。

⑷ Yの主張した過失相殺の抗弁については、XがYからの交際の申し入れを受けて婚約を即断したものではなく、当初は慎重な面もあり、交際を通じて、互いに将来夫婦として共同生活を営む意思が形成されていく中でYと婚約したものであり、Yによる本件婚約破棄について、Xに過失相殺をしなければ公平の理念に反するような事情は伺われず、他に証拠はないとした。

4 コメント

⑴ 婚約は、将来の婚姻という身分関係形成を目的とした合意として、当事者の自由意思が強く尊重されるべき分野の事柄であるから、結納その他慣行上婚約の成立と認められるような外形的事実がない場合には、その認定は慎重になされなければならない、との指摘は、示唆に富んだものです。

これは、単に、財産契約と身分契約の違い、身分契約の締結に外形的事実がある場合とない場合の違いを述べただけではないと思います。

当事者の自由意思の尊重は、自由社会における普遍的な価値ですから、もっと細かく、どんな契約であれ、その契約の種類・目的と個人の自由意思の尊重のいずれにも配慮し、契約の成立、履行、変更、終了等のすべての場面において、合理性のある、慎重な認定がなされなければならないということに、全面展開していく発想であると思います。

 ⑵ 財産的損害の項目ごとの具体的な損害の発生や確定についても、裁判所の判断は、慎重でした。ある程度の損害額の推定による認定は可能ではないかとも思いましたが、それを裁判所に促すためには、当事者の、細かな主張・立証が必要となります。

 ⑶ 慰謝料の認定は、裁判所の裁量の幅が大きいと思いますが、金額の根拠はわかりにくいところです。婚約破棄の慰謝料と暴力行為の不法行為による慰謝料の区別もなされていません。結婚準備のための不動産購入などが、今後の生活維持の上で、大きな痛手となっていること、左上腕・右大腿及び下顎部打撲等の治療や、状況因性うつ状態の治療の通院は、普通、長期にわたることなど、慰謝料に反映されたのか否か。これについても、当事者の、細かな主張・立証の取り組みが必要となります。

 ⑷ Yが提起した過失相殺の抗弁については、Xが婚約について慎重であったから、Yの婚約破棄についてXの過失を問題としなくても公平の理念に反しないとした。

しかし、裁判所が認定した婚約成立時期から見たらそうであるが、しかし、Xの主張は、Yと知り合って6日後を、婚約成立の時としていた。Xの気持ち、すなわち事実上の婚約と、裁判所が認定する法律上の婚約の成立時期が違っていたともいえる。

  

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