1 ポイントは何か
婚姻費用の算定方法
2 何があったか?
⑴ A(男性昭和21年生まれ)とB(女性昭和24年生まれ)は、平成25年に結婚したが令和2年に別居した。
⑵ Aは、令和3年8月19日まで石材業を自営し、同日廃業しており、事業収入は、令和2年確定申告では売上382万6925円、課税される所得金額0円であり、他に年金収入年額144万4315円があった。
⑶ Bは、年金収入のみで、年額39万2160円であった。
⑷ Bは、Aを相手方として、令和3年、千葉家裁に、婚姻費用分担請求の調停を申し立てた。
同家裁の調停手続は、同年、同家裁の審判手続に移行した。
⑸ Bが、同家裁の審判に対し、東京高裁に抗告を申し立てた。
⑹ Aが、付帯抗告を申し立てた。
3 裁判所は何を認めたか?
⑴ Aが、令和3年8月19日、石材業を廃業してからは、Aは事業収入と年金収入であり、Bは年金収入だけであるところ、BがAに対して婚姻費用を請求した令和2年6月からAが石材業を廃業した令和3年8月までの15か月間のAがBに支払うべき婚姻費用分担額は、千葉家裁の審判では合計120万円(月額8万円)、東京高裁の決定では90万円(月額6万円)と算定された。
この違いはどこから生じたか。
それは。家庭裁判所が婚姻費用分担額を算定する場合の「(表10)婚姻費用・夫婦のみの場合」をどう理解するかかによる。
同表は、縦軸が義務者(A)、横軸が権利者(B)で、該当する基礎収入を当てはめて、縦横の交差する場所の婚姻費用分担額の幅の中で決めることになっている。そして、基礎収入は、権利者のも義務者のも、いずれも自営収入と給与収入の2種類に分かれている。Aは自営業者であるから自営収入であり、Bは、自営業者ではないから給与収入である。
自営収入に年金を加算する場合は、そもそも自営収入として確定申告の課税所得から社会保険が控除されたものが用いられるので、課税所得が算出される前にすでに事業経費が控除されるので、そのようにして算出された課税所得からさらに職業費を控除することはない。これに対し、給与収入は、手取り額が職業費を含むので、これを控除するために、15パーセント程度割り引いたものが用いられる。
ところで、年金収入は、職業費がかからない収入である。なので、自営収入や給与収入に換算する場合にどうすればよいかという問題が生ずる。
千葉家裁は、いずれの場合も、年金収入に15パーセント程度の加算修正をする必要があるとし、東京高裁は、給与収入に年金収入を加算する場合は、そのような修正が必要だが、事業収入に年金収入を加算する場合は、年金収入にそのような加算修正をする必要はないと判断した。そのために、両者の差が生じた。
その結果、千葉家裁では、月額6~8万円の枠となり、東京高裁では月額4万から6万円の枠となった。そして、千葉家裁では、その枠の中で月額8万円が相当とされ、東京高裁では、月額6万円が相当とされた。
千葉家裁は、Aが年金を事業費に換算する場合も、Bが給与
⑵ Aが、令和3年8月19日、石材業を廃業して以降は、AもBも年金収入だけになっているので、いずれも給与収入に換算して、給与収入対給与収入ということで同表に当てはめて、千葉家裁の審判でも、東京高裁の決定でも、AからBに対して支払うべき婚姻費用を、同じように、月額2~4万円の枠の中で、月額3万8500円と算定した。
⑶ 東京高裁の決定は、結論として、AがBに対し支払うべき婚姻費用として113万1000円及び令和4年3月1日から当事者の離婚または別居解消に至るまで、毎月末日限り月額3万8500円を支払うよう命じた。
東京高裁の決定日の前月までの分が90万円+3万8500円×6か月=113万1000円であり、決定日の月以降が毎月3万8500円である。
4 コメント
家庭裁判所の養育料、婚姻費用分担額の表は、インターネットで誰でも閲覧することができる。しかし、基礎収入の出し方はなかなかむずかしい。
私も、この裁判例を理解するために、およそ1週間かかった。そして、この算定表の扱い方は、なかなか難しく、基礎収入の算定に当たっても、また、その結果、一定の金額の幅から、どのようにして妥当な金額を求めるかについても、さまざまな考慮が必要であり、まさに正義の道とは遠いものだと感じた。日暮れて道遠しである。
婚姻費用分担審判に対する抗告事件
東京高裁令和4年3月17日 決定
原審 千葉家裁 審判
(判例時報2540号5頁)