【夫婦関係:婚姻費用分担の審判の前に、離婚調停が成立した事件】

1 ポイントは何か?

離婚後に婚姻費用分担の審判を下すことはできるか。

2 何があったか?

⑴ 妻Xと夫Yの夫婦がいた。
おそらく、YがXに生活費を払わず、A家庭裁判所に、Xを相手方として離婚調停を申し立てたのであろう。

⑵ そこで、妻Xが、夫Yを相手方として、A家庭裁判所に、平成30年5月に、婚姻費用分担調停を申立てた。

(3) しかし、Xは、Yとの離婚は、もはややむを得ないと考えたのであろう。同年7月に、XとYの離婚の調停が成立した。

(4) ところが、婚姻費用分担調停は、まだ解決していなかったため、調停不成立となるとともに、家事事件手続法272条4項に基づき、審判手続に移行した。

3 裁判所は何を認めたか?

⑴ おそらく、A家庭裁判所は、婚姻費用分担審判において、一定額の婚姻費用分担額を計算して、YからXに支払うように命ずる審判を下したのであろう。

⑵ これに対して、Yが、札幌高等裁判所に抗告の申立てをし、A家庭裁判所の審判の取消を求めたところ、同高等裁判所はYの主張を認めて、Xの婚姻費用分担請求権は離婚により消滅したとしてA、家庭裁判所の審判を取消し、Xの請求を不適法として却下したのであろう。

私も、現在の婚姻費用分担請求システムでは、このようにならざるを得ないだろうと思っていた。ところが、最高裁の判断は、つぎのようであった。

⑶ 最高裁判所は、札幌高等裁判所の決定を取消し、同高裁に差し戻した。
理由は、婚姻費用は夫婦関係の存在を前提とすることは当然であるから、離婚後の分を請求する余地はないが、家庭裁判所は、過去にさかのぼって婚姻費用の分担額を形成決定することができるのであるから(最高裁昭和40年6月30日大法廷判決)、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定できる。このことは、当事者が、婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求ができる場合であっても異なるものではない。したがって、婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権が消滅するものではない。・・・というものである。
私も、今は、この最高裁の判断が合理的であると考えている。

4 コメント

婚姻費用分担請求調停は、離婚調停とは別に申立てる必要がある。
そして、婚姻費用調停の申立日から、離婚成立ないし別居解消(仲直り)までの間の婚姻費用を、家庭裁判所の算定表に当てはめて、その他一切の事情も考慮して計算され、義務者から権利者に対して支払うようになる。

けれども、離婚成立までに、当事者間で婚姻費用の協定をせず、婚姻費用調停の申立もしなかった場合は、離婚後に婚姻費用調停や審判の申立はできなくなり、それ以後は、財産分与の調停を申し立てた場合に、その一部の事情として解決されることになるだろう。

しかし、離婚前に婚姻費用の調停を申立てていた場合は、離婚が成立した場合に、婚姻費用調停申立ないし審判申立が当然に不適法となることはなく、婚姻費用の請求ないし調停申立から離婚時までの過去の婚姻費用の支払いを求めることは可能である。

それが、この最高裁判決により、わかった。
なお、婚姻費用の請求をしたことは立証できるが、離婚前に調停申立をしていなかった場合に、請求時から離婚時までの婚姻費用分担調停を、離婚後にできるかということも理論的には問題になりうるが、最高裁の論理からは、認めてもよいようにも思われるが、そうではないかもしれない。札幌高裁の論理のように、婚姻費用分担請求は婚姻関係を前提にしているので、少なくとも調停の申立てだけは必要だということも考えられる。

そこで、とにかく、夫婦間の必要な生活費の不払いに対しては、権利者は、義務者に対し、すぐに内容証明郵便で請求し、かつ、離婚の調停と同時にあるいは追っかけすぐに、婚姻費用分担調停を追加申立てるべきだと申し上げたい。

婚姻費用の分担審判に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
最高裁判所第1小法廷 令和2年1月23日決定
(裁判所HP,裁判例検索)

  

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