1 ポイントは何か?
借りた土地の建物の建てかえ
息子夫婦が建てかえてもよいか
土地を返さなければならないか
地主を裏切っていない事情があるか
2 何があったか?
Y1が昭和21年頃親から相続した建物に家族で住んで畳製造業を営んでいたが、平成10年Y1の息子夫婦がたてかえた。息子が地主と協議し承諾料を400万円とすることになっていた。その後、Y1も持分10分の1を持つことを伝えて地主も了解していたが、結局、Y1は共有者とならず、息子が10分の7、その妻が10分の3で登記した。平成17年息子夫婦が離婚し、建物は財産分与で妻のものになった。息子は建物を出て行き、自己破産をした。地主から、平成10年と平成17年の2回の土地無断転貸を理由にY1や息子の元妻に建物を取り壊して土地を明け渡せという裁判が起こされた。
3 裁判所は何を認めたか?
地方裁判所で判決がでて控訴があり、東京高等裁判所では、平成10年にはY1が建物の共有者にならないことを地主に説明せず、地主が承諾料を増額する機会を失わせたこと、平成17年には息子が自己破産したのだからY1の家族の資産状況にも相当な影響があっただろうことから、地主に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があったとは言えないとして、Y1たちが建物を取り壊して土地を明渡し、明渡までの賃料相当損害金を払わなければならないとの判決になった。これに対しY1たちが上告した。
最高裁判所は、地主は一応承諾料400万円でY1の息子夫婦が建てかえることを承諾したこともあり、息子夫婦が離婚し、息子が家を出てから破産したもののY1たち一家の生活状況が特に変わった様子もなく、地代の滞納もなかったので、地主に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があったと認めて、地主による契約解除は無効とし、高裁の判決を取り消し、地主の請求を棄却した。
4 コメント
原審東京高裁はY1たち一家の弱みを突き、これに対し最高裁判決は、Y1たち一家の生活を守った。息子と嫁の離婚や息子が家を出てから破産手続きをとったことは、この家族の苦しい状況を物語っているが、地主に迷惑を及ぼした事実はない。築後10年の建物を取り壊させ家族を立ち退かせ、その結果一家の畳製造業を廃業に追い込むであろうことはその一家にとって過酷であるのみでなく、国民経済全体にとっても良いことではない。最高裁判所のこの判断は、国民生活の安定を維持するという高い理想に立ってこの一家を救済したものである。大きな意味で、日本経済を守った判決というべきではなかろうか。
以上
平成20(受)1340 建物収去土地明渡請求事件
平成21年11月27日最高裁判所第二小法廷判決(破棄自判 )
原審 東京高等裁判所
(裁判所HP裁判例検索)
裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan
集民(集民/裁判集民 最高裁判所裁判集民事) 第232号409頁
038195_hanrei.pdf (courts.go.jp)
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