1 ポイントは何か?
殺意
未必の故意
事実誤認
2 なにがあったか?
老人ホームの准看護師Fは、睡眠導入剤をA、C、Dに飲ませ、Aが普通乗用自動車を運転し普通貨物自動車を運転するBと交通事故を起こし、Aは死亡し、Bが傷害を負った。DがCを助手席に同乗させ普通乗用自動車を運転し貨物自動車を運転するEと交通事故を起こし、C、D、Eが傷害を負った。
3 裁判所は何を認めたか?
⑴ 第1審地方裁判所
Aに対する殺人罪、BないしEに対する殺人の未必の故意(死ぬかもしれないがやむを得ないという認識)による殺人未遂罪を認めた。
⑵ 原審 東京高等裁判所
B及びEに対する殺意を認めたことは事実誤認であるとして、その部分を破棄し差し戻した。
B及びCは睡眠導入剤を飲まされたA、C、Dと異なりそれぞれに危険を回避する可能性もあり死ぬ可能性が高いとは言えない。それでもFに殺意を認めるためには、第三者の死を期待したなどの意思的要素が必要である。そうでなければたとえば飲酒運転、薬物運転で交通事故の相手方が負傷した場合でも同様に殺人の未必の故意が認められ殺人未遂罪が成立すると考えなければならなくなるので不都合である。
⑶ 最高裁判所
第1審地方裁判所の判決を支持し、原審高等裁判所の判決を破棄し、控訴を棄却した。
第1審地方裁判所の判決に事実誤認があると言うためには、論理則、経験則等に照らして不合理な点があることを十分に明らかにする必要がある。
4 コメント
東京高等裁判所がした地方裁判所の判決には事実誤認があるとの判断もなかなか面白い。ところで、飲酒運転、薬物運転による交通事故の被害者に対する殺意については認めてよい場合もあるかもしれない。
(本件最高裁判決が引用する先例最高裁判決)
事実誤認について最高裁平成23年 (あ)第757号同24年2月13日第一小法廷判決・刑集66巻4号482頁
判例
令和2(あ)96 殺人、殺人未遂、傷害被告事件
令和3年1月29日 最高裁判所第二小法廷 判決 破棄自判
原審 東京高等裁判所
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