【公職選挙刑事事件:公職選挙運動として戸別訪問した事件】1

1 ポイントは何か?

  公職選挙運動のための戸別訪問は禁止され、違反すると処罰されますが(公職選挙法138条、239条3号)、これが憲法の保障する国民の固有の権利としての公務員選定罷免権(憲法15条)や基本的人権としての集会結社及び表現の自由(憲法21条1項)に違反しないか。

2 何があったか?

公職選挙運動として候補者の運動員が戸別訪問等を行った。

3 裁判所は何を認めたか?

  公職選挙法の戸別訪問禁止規定等は、公共の福祉による必要かつ合理的制限として憲法に違反しない。

  (本判決が引用する判例)

⑴ 戸別訪問

公職選挙法138条、239条3号(戸別訪問による選挙運動禁止)について、

① 昭和43年(あ)第2265号同44年4月23日最高裁判所大法廷判決・刑集23巻4号235頁

② 昭和55年(あ)第874号同56年6月15日最高裁判所第二小法廷判決・刑集35巻4号205頁

③ 昭和55年(あ)第1472号同56年7月21日最高裁判所第三小法廷判決・刑集35巻5号568頁参照。

⑵ 文書図画の頒布等の制限

公職選挙法 132条1項(昭和50年法律第63号による改正前のもの。当時は、引用判例から文書図画の配布等の制限規定と思われる。現在の同法132条は選挙当日の選挙事務所設置の制限に関する規定となっている。)について、

④ 昭和28年(あ)第3147号同30年4月6日最高裁判所大法廷判決・刑集9巻4号819頁、

⑤ 昭和37年(あ)第899号同39年11月18日最高裁判所大法廷判決・刑集18巻9号561頁、

⑥ 昭和43年(あ)第2265号同44年4月23日最高裁判所大法廷判決・刑集23巻4号235頁。

⑶ 選挙権、被選挙権の停止

公職選挙法252条(選挙犯罪処刑者の5年間ないし執行猶予により刑の執行がなくなるまでの間の選挙権、被選挙権の停止)について、

⑦ 昭和29年(あ)第439号同30年2月9日最高裁判所大法廷判決、刑集9巻2号217頁、

⑧ 昭和55年(あ)第1472号同56年7月21日最高裁判所第三小法廷判決・刑集35巻5号568頁

(裁判官伊藤正己の補足意見)

  欧米の議会制民主主義国では、文書図画による選挙運動は、有効適切な選挙運動の方法として、一般に許容されている。

これに対し、わが国では、昭和44年大法廷判決等で、公職の選挙について文書図画の無制限の頒布や掲示を許すときは、 選挙運動に不当の競争を招き、選挙の自由公正を害するので、法の定める程度の規制は、公共の福祉のため憲法上許された必要にして合理的な制限と解することができるとされている。

しかし、選挙という政治的表現が最も強く要求されるところで、その伝達の手段としてすぐれた効用をもつ手段をきびしく制限することによって失われる利益をみのがすことができない。憲法21条による表現の自由の保障の制限に必要最小限度の制約のみが許されるという一般に表現の自由の制限が合憲であるための厳格な基準が適用されるとすれば、健保違反の疑いもある。選挙費用の多額化を防止するためには、本来法定費用の制限をもつて抑止すべき事柄であり、その範囲内で文書図画による選挙運動を利用しようとする候補者の選択は尊重されてよいであろう。かりに迷惑の度の大きい場合があれば、必要な限度で、それに対応する規制を行うことが可能である。中傷文書や虚偽文書の頒布の防止も、そのこと自体に対して適切な規制を加える方法で対処することが適当である。

そうはいっても、国会が選挙運動のルールを定める場合には、右のような厳格な基準は適用されず、そのルールが合理的と考えられないような特段の事情のない限り、国会の定めるところが尊重されなければならないと解する。この立場にたつと、文書図画による選挙運動に前記のような弊害の伴うことが考えられる以上、公職選挙法142条1項の規定による制限は、立法の裁量権の範囲を逸脱し憲法に違反するものとはいえないと考えられる。

4 コメント

  伊藤正己裁判官の補足意見は、必要最小限度の制約論を展開しつつも、国会尊重主義の裁量権論に収束した。惜しい。

判例

昭和55(あ)1577  公職選挙法違反
昭和57年3月23日  最高裁判所第三小法廷  判決  棄却

原審  大阪高等裁判所