1 ポイントは何か?
本件は、破産者が検察庁から起訴されたのは名誉棄損であるとして国家賠償請求をする事件で、一身専属性があるとして破産者本人による訴訟遂行権を認め、破産者が同訴訟係属中に死亡し一身専属性を失っても、破産手続きが結了後の場合は、相続人が訴訟承継できるとした事例である。
2 何があったか?
破産者Dが検察庁の起訴は名誉棄損であるとして国家賠償請求をした。破産終結後の同訴訟係属中にDが死亡し、破産手続は終了していたので相続人が訴訟承継した。
3 裁判所は何を認めたか?
原々審地方裁判所はDの訴えを認めたが、原審高等裁判所はDが請求する意思を表明した段階で通常の金銭債権となり、破産財団に帰属して破産管財人の管理処分権に服し、Dには訴訟適格がなくなり、訴えは不適法として原審地方裁判所の判決を破棄し、Dの請求を却下したが、最高裁判所は、Dの慰謝料請求権は判決ないし和解が成立するまで一身専属性を失わず、破産者が同訴訟係属中に死亡し一身専属性を失っても、破産手続き結了後の場合は、相続人が訴訟承継できるとしとして原審高等裁判所の判決を破棄し、差し戻した。
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破産者と一身専属権についての重要な判例である。
判例
昭和54(オ)719 損害賠償
昭和58年10月6日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻
(判決抜粋)
「思うに、名誉を侵害されたことを理由とする被害者の加害者に対する慰藉料請求権は、金銭の支払を目的とする債権である点においては一般の金銭債権と異なるところはないが、本来、右の財産的価値それ自体の取得を目的とするものではなく、名誉という被害者の人格的価値を毀損せられたことによる損害の回復の方法として、被害者が受けた精神的苦痛を金銭に見積つてこれを加害者に支払わせることを目的とするものであるから、これを行使するかどうかは専ら被害者自身の意思によって決せられるべきものと解すべきである。そして、右慰藉料請求権のこのような性質に加えて、その具体的金額自体も成立と同時に客観的に明らかとなるわけではなく、被害者の精神的苦痛の程度、主観的意識ないし感情、加害者の態度その他の不確定的要素をもつ諸般の状況を総合して決せられるべき性質のものであることに鑑みると、被害者が右請求権を行使する意思を表示しただけでいまだその具体的な金額が当事者間において客観的に確定しない間は、被害者がなおその請求意思を貫くかどうかをその自律的判断に委ねるのが相当であるから、右権利はなお一身専属性を有するものというべきであって、被害者の債権者は、これを差押えの対象としたり、債権者代位の目的とすることはできないものというべきである。しかし、他方、加害者が被害者に対し一定額の慰藉料を支払うことを内容とする合意又はかかる支払を命ずる債務名義が成立したなど、具体的な金額の慰藉料請求権が当事者間において客観的に確定したときは、右請求権についてはもはや単に加害者の現実の履行を残すだけであった、その受領についてまで被害者の自律的判断に委ねるべき特段の理由はないし、また、被害者がそれ以前の段階において死亡したときも、右慰藉料請求権の承継取得者についてまで右のような行使上の一身専属性を認めるべき理由がないことが明らかであるから、このような場合、右慰藉料請求権は、原判決にいう被害者の主観的意思から独立した客観的存在としての金銭債権となり、被害者の債権者においてこれを差し押えることができるし、また、債権者代位の目的とすることができるものというべきである。」
「・・・亡Dは本件訴訟が原審に係属中の昭和五三年一二月一四日に死亡したというのであるから、本件慰藉料請求権は前記の一身専属性を失なつたものというべきところ、破産終結の決定がされたのちに行使上の一身専属性を失なうに至った慰藉料請求権については、破産法二八三条一項後段の適用がないと解するのが相当であるから、本件慰藉料請求権が右の条項により破産財団に帰属する余地はなく、したがつて、本件訴訟はその相続人において承継することとなるべき筋合である。」