【証拠開示事件:民事損害賠償請求事件の被告が不法行為のないことを立証するため検察官に刑事裁判に提出しなかった捜査関係文書の開示を求めた事件】

1 ポイントは何か?

  民事事件で証拠となる法律関係文書を第三者が保持している場合は、その第三者に対して開示を求めることができるが(民事訴訟法220条2条ないし3条)、刑事裁判に関係する文書は刑事公判において開示する以外は原則不開示であり、例外的に公益上の必要等のために開示が許される場合があるが、検察官に開示拒否の裁量権があり、裁量権の逸脱や濫用がある場合にのみ裁判所が検察庁に対し開示を命じることができると考えられている(刑事訴訟法47条)。本件では、検察庁が開示を拒否しが、裁量権の逸脱ないし濫用の有無が争われた。

2 何があったか?

  Bは、Cらと共謀してA保険会社から保険金208万円を詐取したとして刑事事件で有罪判決を受けた。AがBに不法行為損害賠償請求訴訟を提起したところ、Bは、検察庁に対しBの刑事事件に提出しなかった捜査関係文書を民事事件の裁判で開示するよう求めた。Bは検察庁の不開示には裁量権の逸脱、濫用があると主張した。

3 裁判所は何を認めたか?

  Bは地裁で敗訴、高裁で勝訴、最高裁で敗訴した。

地裁は、検察官の開示拒否に裁量権の逸脱、濫用等はないとし、高裁は、開示しても実害はないので検察官の開示拒否には裁量権の逸脱、濫用があるとし、最高裁はAが検察庁に開示を求めた法律関係分祖はAの民事裁判での立証にとって不可欠な証拠ではないこと等を理由に検察官の開示拒否には裁量権の逸脱、濫用はないとした。

4 コメント

  刑事裁判で有罪になったら民事裁判でも争えないというわけではない。検察官から刑事裁判で提出されなかった証拠が民事裁判で有力な証拠になりうる場合がある。検察官の開示拒否裁量権をいかに合理的に限定するかはこれからの課題であろう。

判例

平成15(許)40  文書提出命令申立て却下決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件
平成16年5月25日  最高裁判所第三小法廷  決定  破棄自判  東京高等裁判所