【損害賠償:建築主が、行政指導のために建築確認を留保していた建築主事に職務上違法があるとして国家賠償請求をした事件】

1 ポイントは何か?

  本件は、建築主が、土木事務所に建築確認申請をしたところ、紛争調整担当職員が地域住民と協議するよう行政指導し、建築主も了解の上、建築主事が建築確認を留保していたところ、建築主がこれ以上は建築確認の留保には応じられないとの意思を明確に示し、地方自治体に国家賠償請求をした事件であり、裁判所は、それ以降の建築確認の遅延は建築主事に職務上違法があるとして建築主の請求を認めた。

2 何があったか?

  Xは、昭和47年10月28日建築確認申請をした。同年12月、地方自治体Yの紛争調整担当職員から、本件建築物の建築に反対する付近住民との話合いにより円満に紛争を解決するようにとの行政指導を受け、それ以降付近住民と十数回にわたり話合いを行った。

ところが、Yは、翌昭和48年2月15日に、同年4月19日実施予定の新高度地区案を発表し、右発表時点で既に確認申請をしている建築主に対しても新高度地区案に沿うべく設計変更を求める旨及び建築主と付近住民との紛争が解決しなければ確認処分を行わない旨を定めた。Xは、このまま住民との話合いを進めても右新高度地区の実施前までに円満解決に至ることは期し難く、その解決がなければ確認処分を得られないとすれば、新高度地区制により確認申請に係る本件建築物について設計変更を余儀なくされ、多大の損害を被るおそれがあるとの判断のもとに、もはや確認処分の留保を背景として付近住民との話合いを勧める上告人の行政指導には服さないこととし、同年3月1日、東京都建築審査会に「本件確認申請に対してすみやかに何らかの作為をせよ」との趣旨の審査請求の申立をした。

その後、Xは、本件損害賠償請求訴訟を提起した。

3 裁判所は何を認めたか?

  Xが勝訴した。

  「(建築基準)法が建築主事の行う確認処分について応答期限を設けた趣旨は、違法な建築物の出現を防止するために建築確認の制度を設け、建築主が一定の建築物を建築しようとする場合にはあらかじめその建築計画が関係法令の規定に適合するものであるかどうかについて建築主事の審査・確認を受けなければならず、確認を受けない建築物の建築又は大規模の修繕等の工事はすることができないこととし、その違反に対しては罰則をもつて臨むこととしたこと(法6条1項、5項、99条1項2号、4号)の反面として、右確認申請に対する応答を迅速にすべきものとし、建築主に資金の調達や工事期間中の代替住居・営業場所の確保等の事前準備などの面で支障を生ぜしめることのないように配慮し、建築の自由との調和を図ろうとしたものと解される。」もちろん、例外がないではない。

Xの意思で、しばらくは建築確認の留保に応じていたが、建築主事は、Xの審査請求により、Xが真摯に早期の建築確認を求めていることを知りえたのであるから、それ以降の遅滞については過失があり違法というべきである。

4 コメント

  本件は、同じく土木事務所の建築主事の職務上の注意義務違反による国家賠償責任の有無に関する同裁判所平成22年(受)第2101号損害賠償請求事件の平成25年3月26日判決でも引用された。

  一般不法行為の故意過失や違法性の判断基準に建築法上の建築確認制度の社会的利益の調整機能を当てはめた。

  東京都には、新高度地区の実施を実効性あらしめるために、計画発表以前の確認申請についても、設計変更を求める必要があったが、社会全体の利益と個別利益の調整の見地から、社会全体の利益は絶対ではないとされたものである。都市計画の限界についても考えさせる裁判例である。

判例

昭和55(オ)309  損害賠償

最高裁判所第三小法廷昭和60年7月16日判決

原審  東京高等裁判所