【損害賠償:新築建物の買主が、その設計および工事管理をした建築士に対し、損害賠償請求した事件】

1 ポイントは何か?

本件は、新築建物の買主から、建物の設計および工事管理をした建築士に対し、建物の瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をした事件であり、裁判所は、建築士が建物の買主に対しても不法行為に基づく損害賠義務を負うとした。

2 何があったか?

  Y1は、建築主Aから9階建ての共同住宅・店舗設計・工事管理を依頼され、Y2は、施工を請け負った。XらがAから買い受けた本件建物には、ひび割れや鉄筋の耐力低下などの瑕疵があった。

  Xらが、Y1に対し不法行為に基づく損害賠償請求をし、Y2に対して請負契約上の注文主の地位の譲受を前提として瑕疵担保責任に基づく瑕疵修補費用又は損害賠償を請求するとともに不法行為に基づく損害賠償を請求した。

3 裁判所は、何をみとめたか?

  1.  原審大阪高等裁判所は、Y1の不法行為の故意・過失を違法性が強度である場合や瑕疵が反社会性や反倫理性を帯びる場合に限定して、Xらの請求を棄却した。
  2.  最高裁判所は不法行為部分の原審判決を破棄し差し戻した。 

建物の設計者、施工者及び工事監理者は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うと解するのが相当であるとした。

4 コメント

本件は、土木事務所の建築主事の職務上の注意義務違反による国家賠償責任の有無に関する同裁判所平成22年(受)第2101号損害賠償請求事件の平成25年3月26日判決の田原睦夫補足意見でも引用された。

  建物の設計者、施工者及び工事監理者は建築基準法や建築士法等の趣旨に基づいて建物の基本的安全性に配慮すべき注意義務を、契約関係にない居住者等に対しても負い、それに違反した場合は不法行為に基づいて損害賠償責任を負担する。これについては、瑕疵による被害を受ける相手が誰であるかに拘わらず同じレベルの注意義務を負う対物的責任説(最高裁平成25年判決の田原説)と、建物居住者であっても建物の注文主か、購入者か、賃貸借契約による居住者であるか、単なる利用者であるか等によって、注意義務のレベルが変わる対人責任説(原審大阪高等裁判所の判決理由、最高裁平成25年判決の寺田・大橋意見)との対立があり、この対立はまだ解決されているとは言えない。

判例

平成17(受)702  損害賠償請求事件

最高裁判所第二小法廷 平成19年7月6日判決

原審 福岡高等裁判所