【損害賠償:車いすでも投票所に行くことが困難となり、在宅投票制度を復活させない立法不作為の不法行為に基づく国家賠償を請求した事件】

1 ポイントは何か?

本件は、車いすにも乗ることが困難になった人が、在宅投票制度を復活させない立法不作為の不法行為に基づく国家賠償を請求した事件であるが、裁判所は、国会は個別の国民との関係で法的責任を負うものではないとして棄却した。

2 何があったか?

  X(明治45年生)は、昭和6年に屋根の雪下ろし中に転落し腰部打撲により歩行困難となった。昭和30年頃から下半身が硬直し、車いすでも投票所に行くことができなくなり、同43年から同47年までの間の合計8回の国及び地方の公職選挙に投票をすることができなかつた。Xは、在宅投票制度を廃止して復活しない立法行為は、在宅選挙人の選挙権の行使を妨げ、憲法13条、15条1項及び3項、14条1項、44条、47条並びに93条の規定に違反するもので、国会議員による違法な公権力の行使であり、Xは精神的損害を受けたとして、国家賠償法1条1項の規定に基づき国に対し損害賠償を請求した。

3 裁判所は、何を認めたか?

Xの請求を棄却した。 

「国会議員の立法行為は、本質的に政治的なものであつて、その性質上法的規制の対象になじまず、特定個人に対する損害賠償責任の有無という観点から、あるべき立法行為を措定して具体的立法行為の適否を法的に評価するということは、原則的には許されないものといわざるを得ない。」

4 コメント

本件は、土木事務所の建築主事の職務上の注意義務違反による国家賠償責任の有無に関する同裁判所平成22年(受)第2101号損害賠償請求事件の平成25年3月26日判決の寺田逸郎・大橋正春補足意見でも引用された。

  本判決の「国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。」との文言が、原則的に個別の被害者との関係で公務員の職務上の注意義務違反の違法性をとらえている判例として引用された。

  国会や各国会議員が個別の国民に対して立法活動において、個別の国民に対し法的責任は負わないというのが本判例の趣旨であるが、寝たきりの状態にある人にとって在宅投票制度は不可欠であるとの訴えには同調する。現在は、郵便等による不在者投票が出来る(総務省|郵便等による不在者投票ができます (soumu.go.jp))。

判例

昭和53(オ)1240  損害賠償

最高裁判所第一小法廷昭和60年11月21日判決  棄却  

札幌高等裁判所