【海難事故:船だまりからの出航船と入港船が海上で衝突した事件】

1 ポイントは何か?

  船だまりからの出航船と入港船が海上で衝突し、海難審判所は、出航船が無灯火であったことが事故の原因であるとして、出航船の船長に対し、小型船舶操縦士の業務を停止する懲戒の採決を下した。入港船の船長は不処分であった。出航船の船長から、裁決の取り消しを求めえる裁判を提起した。原審東京高等裁判所は申立てを棄却したが、最高裁判所は、高等裁判所が指摘した海難審判所の事実関係と異なった事実関係の可能性を再度審理するために、高等裁判所の判決を破棄し差し戻した。

2 何があったか?

  平成29年3月16日未明、船だまりから出航した漁船甲(長さ7.16mの動力船)無灯火で海上を左転し、同じ船だまりへ入港しようとする漁船乙(長さ5.69mの動力船)が右転し接近してきたのに気が付かず、その進路方向の前方に進入したために海上で衝突し、甲船は右舷船尾部に圧潰等を、乙船は船首部及び船底部に破口等を生じた。甲船船長Aが入院加療約2か月を要する右外傷性気胸等の傷害を負った。

海難審判所は、甲船が無灯火であったことが事故の原因であるとして、Aに対し、小型船舶操縦士の業務を停止する懲戒の採決を下した。

  Aから、裁判所に対し、同採決の取消しを求める訴えを提起した。

3 裁判所は何を認めたか?

  1.  原審東京高等裁判所

 Aは、乙船が右転することは十分に予測できたのに、職務上の注意義務に違反して乙船の動静監視を怠り、法律に違反して無灯火で航行し、無灯火航行と本件事故との因果関係があるとして、海難審判所の判断に違法はないとした。

  1.  最高裁判所は、高等裁判所が海難審判所の事実関係と異なった事実関係の可能性を指摘していたことについて、事実関係を確定する必要があるとして、再度審理するために、高等裁判所の判決を破棄し差し戻した。

4 コメント

   海上交通は、陸上交通と異なり、道路や信号がなく、また、船舶は、すぐには曲がれない。相手の船舶が、かなり遠くに見えるときから、その進路を予想して、自船との衝突を回避する必要性がある。灯火や信号による相互の注意喚起も大切である。

判例

令和5(行ヒ)2  裁決取消請求事件
令和6年1月30日  最高裁判所第三小法廷  判決  破棄差戻

原審  東京高等裁判所