【国家賠償事件:警察官が過重労働で自殺した事件】

➀最高裁判所第二小法廷令和5(受)961  損害賠償請求事件
令和7年3月7日判決(棄却)  広島高等裁判所

➁最高裁判所第二小法廷  令和5(受)927  損害賠償請求事件
令和7年3月7日判決(破棄差戻)  広島高等裁判所


1 ポイントは何か?


使用者の義務。精神疾患等を発症する過重労働の認定基準。


2 何があったか?


警察官Aが、平成24年3月上旬に当時33歳で自殺した。➀事件は、遺族で
ある妻子Bらが、➁事件は父親Cが、いずれも県警察本部を設置するD県に対
し損害賠償請求をした事件である。
労働災害認定基準では1か月以上100時間超の残業ないしそれに準じる負荷
が自殺との因果関係を認める目安になっており、Aの自殺直前の1カ月の残業
は117時間であったが、それ以前は100時間を超えていなかった。しかし
、自殺の3か月前のストレス診断では総合評価がE(かなり悪い)であった。


3 裁判所は何を認めたか?


Aは、遅くとも平成24年3月上旬の時点において、うつ病エピソードを含む
精神疾患を発症していた。➀事件では、Dは、Bらに対し、Aが自殺したこと
について、安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任を負うというべきであると
し、➁事件では、Dは、Cに対し、Aが自殺したことについて、国家賠償法1
条1項のに基づく損害賠償責任を負うというべきであるとした。➀事件では、
原審広島高裁でBらが勝訴しており、Dの上告を棄却した。➁事件では、原審
広島高裁でCが敗訴しており、Cの上告を認め原審判決を破棄差戻した。 


4 コメント


労働災害については、労働災害認定基準があるが、柔軟に考えること。Aの過
労自殺について、➀事件は安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求、➁事件は
国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求であるが、いずれにしてもAの過労
と自殺の因果関係を認めるべき事案であった。