共有持分権確認請求事件
最高裁判所 令和4年4月12日第三小法廷判決
原審東京高等裁判所の判決を破棄し、差し戻した。
(最高裁判所HP裁判例検索)
091095_hanrei.pdf (courts.go.jp)
1 ポイントは何か?
⑴ 町内会が所有権を取得する合意書は有効か?
⑵ 権利能力なき社団が所有権を取得するにはどうすればよいか。
⑶ 裁判所は、釈明権を行使して、当事者の主張を改めさせるべきか。
2 何があったか?
⑴ 3つの町内会A、B及びCが、共有にすること(※1)を合意して建物を建築した。
(※1)共有
例えば、3つの町内会が、それぞれ3分の1の持分で、建物を共同で所有すること。
⑵ 建築後、Aが、共有にする合意の存在を否定し、B及びCには、建物の共有持分がないと主張した。
⑶ Bが原告として、Aを被告として、D地方裁判所に、Bの共有持分権確認訴訟を提起した(※2)。
(※2)共有持分権確認訴訟
3つの町内会の合意内容が、各町内会3分の1ずつの持分による共有であるとしたら、Bは、Bの名前で、3分の1の共有の確認を求めた。
3 裁判所は何を認めたか?
⑴ D地方裁判所の判決は、Bの請求を認め、Bの建物共有持分権を確認した。すなわち、Bが、合意で定められた共有持分を有することを確認した。。
⑵ これに対し、Aが、東京高等裁判所に控訴した。
⑶ 高等裁判所は、判決で、町内会は、権利能力なき社団(※3)であるから、所有権を取得することはできないとして、地方裁判所の判決を取消し,Bの請求を棄却した。
(※3)権利能力なき社団
構成員がいて、規約があり、社会的に存在する団体と見ろ芽られるが、自ら、死産や負債の権利主体になることができないものをいう。その名前で所得した所有権は、構成員全員の総有とみなされる。構成員は、それぞれ固有の権利を持つわけではなく、団体の規約に基づいて、資産を利用することができる。
⑷ これに対し、Bが、最高裁判所に、上告受理申立事件を提起した。
⑸ 最高裁判所は、判決で、高等裁判所の判決を破棄し、事件を高等裁判所に差し戻した。理由は、権利能力のない社団がその名において取得した資産は、その構成員全員に総有的に帰属するものである(最高裁昭和39年10月15日第一小法廷判決、民集18巻8号1671頁)裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan から、高裁の判断は、間違いであるとは言えないが、Bは、建物の共有持分権が、Bの構成員全員に総有的に帰属することの確認を求めるものであるか否かについて釈明権を行使する必要があったので、そのために、高等裁判所の判決を破棄して差し戻すというものである。
4 コメント
⑴ 町内会は、権利能力なき社団であり、所有権所有者になることはできない。しかし、町内会の名前で所有権を取得する合意は全く無効ということではなく、町内会の構成員全員の総有となるという効果が生ずるので、その限度で有効である。
⑵ しかし、誤解のないよう、町内会の名前で所得した所有権は構成員全員の総有となり、各構成員は町内会の会則に基づいてのみ利用できるということを、合意書にも明記しておくべきだろう。
⑶ 最高裁の判断は、裁判官は、弁論主義(※4)を尊重しなければならないが、当事者の弁論の内容から、当事者が本来為すべき申立や主張などが十分に推察できる場合には、放置せず、積極的に釈明権(※5)を行使し、正義の実現を図るべきであるという考え方に立ったものである。
(※4)弁論主義
判決の基礎にできる事実は当事者が提出したものに限られる。その根拠については、私権の自由処分性に基づく本質説、真実発見に合目的的とする手段説、不意打ち防止・公平の要請などを加えた多元説などがある(松本博之「民事訴訟法」平成10年、33頁)。
(※5)釈明権
裁判所から当事者に対して、主張や証拠について質問を発するなどの権限である(松本前掲38頁)。裁判長の訴訟指揮権(民事訴訟法148条)、釈明権等(同149条)、訴訴訟指揮に対する異議(同150条)、釈明処分(同151条)などの規定がある。
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