損害賠償請求事件
最高裁判所第三小法廷 平成28年9月6日判決
(東京高等裁判所の判決の損害賠償請求棄却部分を破棄差戻した。)
(裁判所ホームページ裁判例検索)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/107/086107_hanrei.pdf
1 ポイントは何か?
⑴ 匿名組合契約
⑵ 利益相反行為と善管注意義務
⑶ 出資者の承諾は必要か
2 何があったか?
⑴ 平成19年6月1日
Xが、Y1社(総合コンサルティング業者。Y1社の代表取締役はY2である。)の事業に3億円を出資した。
Y1社は、これを受領した。
その出資は、匿名組合契約(※1)の締結によるものであり、Xが匿名組合員であり、Y1が営業者である。
そして、Y1社の本件営業による事業の損益は、全てXに帰属するというものである。
⑵ 平成19年10月26日
A社(パソコン解体業者。A社の代表取締役Y3は、Y1社の代表取締役であるY2の弟である。)のパソコンリサイクル事業を分離承継する目的で。新設分割(※2)により、C社が設立された。
C社の全株式は、Y2・Y3に割当てられた。
Y3が、C社の代表取締役に就任した。
⑶ 平成20年1月7日
D社設立。
Y1社が匿名組合契約の営業者として、Xの出資金から8000万円を出資し、Y2・Y3が各1000万円を出資した。
Y3が、D社の代表取締役に就任した。
⑷ 平成20年1月10日
C社の株式価値評価書が作成された。
2種類の評価方法により、一方は200万円、他方は2億9755万7000円であり、これらを折衷するなどして、C社の全株式の評価額は1億4229万円から1億5726万7000円であるされた。
Xは、この評価に関わっていない。
⑸ 平成20年1月23日
D社が、Y2・Y3から、C社の全株式を取得し、代金1億5000万円を支払った。
Y1社が、匿名組合の営業者として、Xの出資金で、D社の新株予約権付社債(※3)を1億円で引受け、払い込んだ。
⑹ 平成20年3月1日
D社が、C社を吸収合併(※4)した。
⑺ Xは、Y1社・Y2・Y3に対し、1憶6500万円の損害賠償請求訴訟を提起した。
3 裁判所は何を認めたか?
⑴ 高裁は、Xの請求を棄却すべきものとした。
匿名組合契約の匿名組合員(X)と営業者(Y1社)又はその利害関係人(Y2・Y3)との利益が相反する取引をすることは、営業者がその地位を利用して、匿名組合員の犠牲において自己または第三者の利益を図るものと認められるときに限り、善管注意義務に違反するものと解すべきである。Y1社には、善管注意義務違反はなく、Y1社らに不法行為責任等は認められない。
⑵ 最高裁は、高裁の判断を覆した。
平成20年1月23日付けの、D社による、Y2・Y3らからの、C社の全株式の買取は、D社の利益・不利益が、Y1社を通じて、全てXの利益・不利益となるから、Xと、Y1社の関係者であるY2・Y3との間に、実質的な利益相反が生ずるものと言うべきである。
C社の株式には、市場評価が存在しないうえ、Xには、C社の株式評価に関与する機会がなかった。
Y1社がD社に出資した8000万円と社債1億円の合計1億8000万円、及び、D社がY2・Y3から取得したC社の全株式の代金1億5000万円は、いずれもXの出資額3億円の2分の1以上であり、Xの利益を害する危険性が高い。
Y1社が、このような一連の取引を行うことは、Xの承諾を得ない限り善管注意義務に違反すると言うべきである。
⑶ 裁判官木内道祥の補足意見
本件匿名契約によってY1社の営業者としての事業の損益のすべてを引き受けるXが、A社のパソコンリサイクル事業のD社への譲渡内容及びその譲渡代金というべきC社の全株式代金の決定について、自ら関与することなく、旧経営陣であるY2およびY3に任せることは通常考えられないので、Y1社は、これらについてXの承諾をとることが求められる。
※1 匿名組合(商法535条)
当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる。
※2 新設分割(会社法2条30号)
一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に承継させることをいう。
※3 新株予約権付社債(会社法2条22号)
新株予約権を付した社債をいう。
※4 吸収合併(会社法2条27号)
会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。
4 コメント
非常に複雑な取引になっていますが、要するに、Xが、A社の事業の一部であるパソコンリサイクル事業に出資しようとしたら、Y1社の代表取締役Y2と兄弟であるA社の代表取締役Y3が手を組んで、Xの出資金3億円の2分の1以上を株式代金名目等で取得したというもの。しかも、この取引の損益は全てXに帰属することになります。残りの出資金も、Y1社が営業目的で使えるのですが、途中で、Xが、ちょっとおかしいと気が付いたのでしょう。Y1社、Y2およびY3に対して、説明をもとめ、損害賠償請求をしたという事案です。
高裁は、たとえ利益相反であっても、Y1社の広い自由裁量を認めたのですが、最高裁は、Xの承諾を得なければ善管注意義務を尽くしたことにならないとして、高裁判決を破棄差戻しました。木内最高裁判事の補足意見もあります。
取引は、できるだけわかりやすい、簡単な方法を選んで行いましょう。