【医療過誤事件:左脛骨高原骨折後の手術とギプス固定により下肢深部静脈血栓症を発症し、左下肢静脈血栓後遺症となった事件】

1 ポイントは何か?

  本件は、患者が医師に対し、治療当時、もはや打つ手がないとしても、一般的な医療水準の範囲内で最も適切な治療を受けられるように別の専門医の紹介を受けることなどを期待する権利があるかが争われた事案である。

2 何があったか?

  Bは昭和63年10月29日、左脛骨高原骨折し(※膝の関節の一部で、すねの骨の上部で平らな部分)、Y1が開設するA病院に同年11月4日入院し、勤務医Y2による骨接合術及び骨移植術を受け、平成1年1月13日退院した。同年8月頃再入院しボルトの抜釘の手術を受けた。

このような手術を受けた場合、その後のギプス固定により下肢深部静脈血栓症を発症し、左下肢静脈血栓後遺症を残すことが一般的に知られるようになったのは平成13年頃である。

Bは、それ以降に大学病院等で左下肢深部静脈血栓症、左下肢静脈血栓後遺症の確定診断を得て、A病院、Y1及びY2に対し損害賠償請求をした。

3 裁判所は何を認めたか?

  第1審地方裁判所は、Bの請求を棄却した。

  Bが控訴し、原審広島高等裁判所の判決は、A病院は、平成9年10月22日にBがA病院を再訪し、レントゲン撮影や足の周囲の長さを測定したときに別の専門医に照会するなどの義務を怠ったことによりBが当時の医療水準に基づく適切な治療を受ける期待権を侵害され、精神的損害を被ったとしてAに金300万円の損害賠償義務を認めた。

  最高裁判所は、このような期待権の侵害のみを理由とする不法行為責任は著しく不適切な治療行為を行った場合に検討するにとどまるとして原判決を破棄し、Bの控訴を棄却した。

それにより第1審地方裁判所のB敗訴の判決が確定した。

4 コメント

  平成9年10月22日時点で、Bの症状にはもはや手の打ちようがなかったとしても、レントゲン写真から左下肢深部静脈血栓症の存在が発見されていれば、Bが無駄に苦しむこともなかったことが期待されるので、私には原審高裁判決の判断が最高裁の判断よりも合理的であったように思われる。

以上

判例

平成21(受)65  損害賠償請求事件

平成23年2月25日  最高裁判所第二小法廷  判決  破棄自判  原審 広島高等裁判所