1 ポイントは何か?
本件は集団予防接種によってB型肝炎が発症したとして不法行為に基づく損害賠償請求をした事件であり、接種と発症の相当因果関係、複数回の集団予防接種のいずれが発症の原因かを特定する必要性の有無、20年の除斥期間(平成29年改正前の民法724条後段、なお、同改正後は時効期間とされている。)の始期はいつで、いつまで損害伴奏請求をすることができるか等が問題となった。
2 何があったか?
幼児のころ受けた集団予防接種によって成人後にB型肝炎が発症した。
3 裁判所は何を認めたか?
原審札幌高等裁判所は原告らが除斥期間を経過しているとして請求を認めなかった。
最高裁判所は原審判決を破棄し自判した。
原告らは,本件集団予防接種等における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染した蓋然性が高いというべきであり,経験則上,本件集団予防接種等と原告らの感染との間の因果関係を肯定するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。
なお,原告らの一部は,複数の集団予防接種等を受けているところ,原審は,そのいずれによってB型肝炎ウイルスに感染したのかを特定していないが,その集団予防接種等のいずれについても,被告が法律上賠償の責任を負うべき関係が存在することを認めているのであるから,被告が賠償責任を負う理由として欠けるところはない。
民法724条後段所定の除斥期間の起算点は 「不法行為の時」と規定されており 加害行為が行われた時に損害が発生する不法行為の場合には加害行為の時がその起算点となると考えられる。しかし,身体に蓄積する物質が原因で人の健康が害されることによる損害や,一定の潜伏期間が経過し た後に症状が現れる疾病による損害のように,当該不法行為により発生する 損害の性質上,加害行為が終了してから相当期間が経過した後に損害が発生 する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点と なると解すべきである(最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月 27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁 最高裁平成13年(オ) 第1194号,第1196号,同年(受)第1172号,第1174号同16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁参照 。)
4 コメント
除斥期間の起算点を「損害の全部または一部の発生の時から」とはどういう意味か。全部の損害とは一時に全部の損害が発生する場合をいい、それ以外の場合は一部でも損害が発生したらその時から除斥期間ないし時効期間が進行することになると考えて対処しなければならないであろう。
判例
平成16(受)672 損害賠償請求事件
平成18年6月16日 最高裁判所第二小法廷 判決( 破棄自判)