【損害賠償:建物新築時の評価額に誤りがあり、その後長期にわたって過大な固定資産税及び都市計画税を支払い続けてきた事件】

1 ポイントは何か?


  国家賠償法に基づく損害賠償請求権も、不法行為の時から20年の除斥期間(国家賠償法4条、民法724条)が経過すると消滅する。本件は、東京都23区内のある建物新築時の評価額の東京都知事による決定と固定資産税及び都市計画税(以下、「固都税」という。)の通知に誤りがあり、それを前提に3年ごとの評価替えを行ったために、当該建物の所有者は、長期にわたり過大な固都税を支払い続け、損害を被ったとして国家賠償法に基づく損害賠償請求をした事件である。原審東京高等裁判所は、新築時の価格決定時を除斥期間の始期とし、それから20年が経過すると、その後のすべての年度分も含めてもはや損害賠償請求はできないとしたが、最高裁は、各年度毎の納税通知の交付後20年経過していない年度分についてはまだ損害賠償請求が可能であるとした。


2 何があったか?


  Aは、昭和57年に非木造家屋を建築し、昭和60年度から平成18年度までの各基準年度の再建築費評点数は、新築当初の再建築費評点数を基礎として乗率比準評価方式、評点補正率方式により順次算出された。
  Aは、当初の東京都知事が行った本件建物の評価決定に誤りがあったとして、各年度に過大な固都税が課されたとして東京都に対し損害賠償請求をした。


3 裁判所は何を認めたか?


  東京高等裁判所では、建築当初の価格決定時(昭和58年6月30日)を除斥期間の起算点とし、すでに20年が経過しているとして、Aの全面敗訴となった。
  しかし、最高裁判所では、各年度毎に納税通知の交付時点を除斥期間の起算点とし、まだ除斥期間が経過していない年度分の損害賠償は請求できるとして、東京高等裁判所が下した判決の内、平成4年度から同20年度の固都税に関するA敗訴部分を破棄し、各年度毎の除斥期間経過の有無及び損害額の算定のために、東京高等裁判所に差し戻した。


4 コメント


  建物の課税台帳上の評価額や固都税の決定通知に誤りがあった場合、課税庁自ら訂正する場合もあるが、所有者が課税庁に対する異議申立や審査会に審査請求をして訂正される場合もある。本件のように裁判になる場合もある。本件では、不法行為にもとづく損害賠償請求権の除斥期間の始期は何時なのかが問題となり、最高裁判所によって、説得力のある重要な判断が示された。最高裁判所第3小法廷の関わった裁判官4名の全員一致の意見である。

判例

最高裁判所第3小法廷平成30年(受)第388号損害賠償請求事件、令和2年3月14日判決