【住民訴訟:市が非常勤職員に退職慰労金を支払ったことは給与条例主義に違反しているとして住民訴訟が提起された事件】

1 ポイントは何か?

  本件は、大阪府大東市の市長らが、市の要綱に基づいて非常勤職員らに退職慰労金を支払ったことが、地方自治法の給与条例主義(204条3項、204条の2等)に反しているとして、市の執行機関に対し、市長らに損害賠償請求をするよう求める住民訴訟が提起された事件である。第1審大阪地方裁判所の判決は、住民側勝訴であった。その後、市議会が、それ以後は非常勤職員らに対し退職慰労金を支払わないこと、及び、市長らの本件不法行為に基づく損害賠償請求権を放棄(免除)するとの決議をした。第2審大阪高等裁判所の判決は、それを踏まえて住民側敗訴とした。しかし、最高裁判所は、市議会の損害賠償請求権放棄(免除の)決議が裁量権の逸脱・濫用にわたらないか、及び、市議会決議だけでは当然に放棄(免除)の効果が生じるわけではなく、市の執行機関による放棄(免除)の意思表示が必要であるとして、第2審判決を破棄し、差し戻した。

2 何があったか?

  大阪府大東市は、「大東市非常勤職員の報酬等に関する要綱」に基づいて平成19年に退職した2名の非常勤職員に対し、合計約270万円の退職慰労金を支払った。住民らが、このような支払いは地方自治法の給与条例主義に違反するとして支払われた退職慰労金の返還等を求める住民監査請求をしたが、市監査委員が却下した。

住民らは、住民訴訟により、市の執行機関に対し、市長A、総務部長B、人事課長C、同Dに不法行為に基づく損害賠償請求をすることを求める住民訴訟を提起した。

3 裁判所は何を認めたか?

第1審は、住民側勝訴であった。

その後、市議会が、以後は非常勤職員らに退職慰労金を支払わないこと、及び、市長Aらに対する退職慰労金支払いの不法行為に基づく損害賠償請求権を放棄(免除)することを決議した。

市長Aらが控訴した。

第2審は、市議会の決議を踏まえて住民側敗訴とした。

住民側が上告した。

最高裁判所は、市議会の市長Aらに対する退職慰労金支払いの不法行為に基づく損害賠償請求権を放棄(免除)する決議だけでは放棄(免除)の効果が生じないとし、放棄(免除)の効果が生じるためには、市の執行機関による放棄(免除)の意思表示が必要であり、その意思表示の有無の確認が必要であること、及び、市議会の決議が、住民訴訟の制度に照らして、裁量権の逸脱・濫用にわたらないかを、第2審裁判所に再度審査させるために、第2審判決を破棄し差し戻した。 

なお、住民側は、住民訴訟で、退職慰労金の支払い停止も併せて求めていたが、住民側が最高裁に提出した上告理由書には、その点の上告理由がなかったために却下となった。住民側がその部分の上告理由を提出しなかったのは、市議会が以後の退職慰労金の支払いをやめることを決議したからであろう。

4 コメント

  大東市の非常勤職員への退職慰労金の支払いは、大東市と非常勤職員との労働契約に基づくものであるから、それ自体は有効である。

しかし、その支払いの根拠は行政内部の要綱しかなく、市議会の決議によって成立する条例に基づいていなかったので、支出した市長らの不法行為とされたのである。

  けれども、長年の慣行として、予算も組まれて支出されていたのであるから、成文の条例に準ずる慣習としての条例が成立していたとみる余地はないのだろうか。

  最高裁裁判官千葉勝美の補足意見に、住民訴訟の場合は、国家賠償請求訴訟と異なり、地方自治体の首長については、故意または重大過失に限定する規定がないので、制限立法の必要性が指摘されているが、もっともだと思う。

判例

平成21(行ヒ)235  損害賠償請求事件
平成24年4月20日  最高裁判所第二小法廷  判決  その他  大阪高等裁判所