1 ポイントは何か?
何を基準に公務の危険性の有無や公務起因性を判断するか。
2 何があったか?
Aは、H町職員であったが、公務に起因して抑うつ状態(適応障害)を発症(以下、「本件災害という。」したとして地方公務員災害補償基金北海道支部長殿宛てに公務災害認定申請をした。しかし、公務外災害の認定処分が下され(以下、「本件処分」という。)、Aは同支部審査会に審査請求をしたが、同支部審査会は棄却した。Aは地方公務員災害補償基金を被告として、札幌地方裁判所に本件処分取り消し請求訴訟を提起した。
地方公務員災害補償基金は、公務と本件災害との相当因果関係を否認した。
3 裁判所は何を認めたか?
A勝訴。
札幌地方裁判所は公務と本件災害との相当因果関係を認め、本件処分を取り消した。
Aの勤務簿は、正確性に欠けるとして、Aの抑うつ状態(適応障害)発症前4か月間の残業が、毎月100時間を超えていた事実を認定した。
Aにはそれ以前にクローン病に罹患していたが、それによる精神的・肉体的負荷は、本件災害時にはなかったと認定した。
「地方公務員災害補償制度が危険責任の法理に基づくものであることからすれば、公務の危険性の有無は、平均的な地方 公務員、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該公務員と職種、職場における立場、経験等の点で同種の者であって、特段の勤務 軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準として、 当該公務が精神疾患を発症・悪化させるほどの心理的負荷を加えるものといえるかによって判断すべきと解される。」とし、公務の危険性に重点を置くが、「ストレス-脆弱性」理論で守られるべき脆弱性の高い人にはやや不利かと思われる。
「「精 神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年3月16日地基補第61 号。以下「認定基準」という。)、被告内部の通知にすぎず、裁判所はこれに拘束されるものではないが、同基準は、「ストレス-脆弱性」理論をはじめとする 精神医学上の知見に依拠したものといえるから、精神疾患の公務起因性の判断に当たっての一般的な経験則として、これを参照するのが相当である。」とし、裁判所も、認定基準は無視しない。
4 コメント
危険責任の法理と「ストレス-脆弱性」理論は、同時に生かすべきではないか。
判例
札幌地方裁判所令和4(行ウ)18 公務外認定処分取消請求事件 令和6年3月15日判決