【年金事件:障害基礎年金受給により児童扶養手当が停止された事件】

最高裁判所第三小法廷 令和6(行ツ)54 児童扶養手当支給停止処分取消請求
事件 令和7年6月10日判決(原審、大阪高等裁判所判決)


1 ポイントは何か?


 障害基礎年金受給者の児童扶養手当支給停止は憲法違反ではないか。
 (この点については、その後法改正があり、差額を受給できるようになった
。)


2 何があったか?


 Aはひとり親で、生活保護、児童手当、及び、児童扶養手当を受給していた
が、障害基礎年金を受給するようになると、児童扶養手当の支給が停止された
。二人親であれば、親の1人が障害基礎年金を受けても他の親が児童扶養手当
を受けることができた。
Aは、児童扶養手当法13条の2第2項1号及びその委任を受けた児童扶養
手当法施行令(令和2年政令第318号による改正前のもの。以下同じ。)6
条の4(現6条の5)が規定する児童扶養手当と障害基礎年金との間の併給調
整は、同法13条の2第1項2号又は3号が適用される場合との間で合理的理
由のない差別をもたらすもので憲法25条及び14条1項違反、41条違反で
あると主張し上告した。
児童扶養手当法13条の2第2項1号が適用される場合は母又は父の一方の
みが児童扶養手当及び障害基礎年金の受給権者であるのに対し、同条1項2号
又は3号が適用される場合においては、母又は父の一方が児童扶養手当の受給
権者であり、他方が障害基礎年金の受給権者であるなどの違いがあり、前者の
場合には、障害基礎年金に子があることによる加算の反面として加算額よりも
多い児童扶養手当の支給を制限することにより、後者の場合との差が生じた。
(なお、この点は現在改められているとのこと。)


3 裁判所は何を認めたか?


最高裁は本件上告を棄却した。上記のような併給調整は立法府の裁量の範
囲内であり、憲法25条及び14条1項違反はないとした。憲法41条違反の
点は、上告理由として認めなかった。
(裁判官宇賀克也の反対意見の要旨)
1 「児童の福祉の増進を図る」(児童扶養手当法1条)という同法の究極
目 的に照らせば、形式的には児童扶養手当の受給権者は親であっても、子の
視点から考えることが必要である。
2 ふたり親世帯の場合の経済的負担が増加する面のみに着目して、障害基
礎年金と児童扶養手当の併給調整について、ひとり親世帯に不利な取扱いをす
ることの合理的理由になるかには疑問がある。
3 障害基礎年金の本体部分は、障害による稼得能力の喪失又は低下を補填
する所得保障としての性格を有し、障害基礎年金の子加算については、定額が
給付されるのであるから、子がいることによる支出増を補填する性格が濃いよ
うに思われる。
4 ある社会保障制度を設ける法律が制定された場合、個々の社会保障制
度について、そこに合理的に説明できない差別があれば、それは平等原則に違
反するといわざるを得ず、その差別の結果、給付が低下した部分が生活保護等
により補填されているのであれば、個々の社会保障制度において、合理性が説
明できない差別があってもよいということにはならないと思われる。
5 以上に述べてきたことに照らすと、私は、令和2年法律第40号による
改正前の児童扶養手当法13条の2の規定による委任に基づく同法施行令(令
和2年政 令第318号による改正前のもの)6条の4の規定は、憲法14条
が定める平等原則に違反すると考えざるを得ない。
(この宇賀反対意見は、その後の法改正の原動力になったと思われる。)


4 コメント


 社会保障制度は分かりにくい。よく調べて、窓口でもよく聞き、請求する必
要がある。