【表現:刑事事件の被告人が、TV番組ディレクター等に損害賠償等を請求した事件】

損害賠償等請求事件

東京地方裁判所平成17年8月25日判決

1 ポイントは何か?

  • 刑事被告人の人格的権利の保護。
  • 刑事裁判について、TV番組を制作することや、それをまとめた書籍を出版する場合の、被告人本人の承諾を求める必要性の有無。
  • 刑事事件は、昭和55年のいわゆる埼玉県宮代町事件(強盗殺人、放火により、死刑判決)である。

2 何があったのか?

刑事裁判の被告人Aの支援者が、TV会社に、Aが無実である旨の手紙を送った。それを読んだ番組ディレクターCが、取材を開始し、平成4年に番組を放送した。Bは同番組のキャスターを務めた。

平成6年頃、同番組をまとめた書籍が出版された。同書籍には、AやAの母親の顔写真が掲載され、Aの手紙、イラスト及びAの著書が引用された。

Aは、平成16年、すなわち同番組放送から12年後、同書籍出版から10年後に、地裁に、B及びCを被告として、著作権、肖像権、プライバシー権ないしパブリシティー権などを侵害されたとして、金1000万円の損害賠償その他を請求する訴訟を提起した。

Aは、Aの事前の承諾なく、顔写真の掲載等が行われたこと、A自身は、番組の放送や、番組の書籍の出版を知らなかったこと等を主張した。

3 裁判所は、何を認めたか?

Aは、敗訴した。

裁判所は、諸事情を総合的に考察して、Aの事後的な、黙示の承諾があったと認定した。

4 コメント

パブリシティー権とは、自己の名声を他人に無断で利用されない権利を言う。無実を主張する刑事被告人としての地位は、必ずしも良き名声とは言えないが、やはり、関心のある第三者の気持ちを引き付ける力があるので、パブリシティー権が成立する場合もあると考える。

新聞や雑誌及びTV番組などに、刑事被告人の顔写真を掲載して報道することは、許される。それは、被告人の肖像権を侵害することになるが、特に被告人の承諾を必要としない。それは、公共の利益のための事実の報道だからである。しかし、被告人にもパブリシティー権があるとすれば、私益のために、名声を無断で使用されるような態様があれば、損害賠償請求の根拠となるだろう。だから、当該TV番組や、それをまとめた書籍を出版することが、そもそも公益のためだったのか、私益のためだったのかということが、問題ではなかったかと思われる。

本件では、事後的、黙示的であっても、本人の承諾があったと認定されたので、仮にパブリシティー権があったとしても、その侵害は存在しないことになった。

以上