【相続:遺言書もなく、相続人もいない事件】

特別縁故者に対する相続財産分与申立事件(第1事件、第2事件)

山口家裁周南支部令和3年3月29日審判

(判例時報2527号80頁)

1 何がポイントか?

  • 特別縁故者への相続財産の分与の手続。

2 何があったか?

R(昭和34年生まれ、婚姻歴なし、子らももうけなかった。)が急死した。

警察が通報を受けて発見し、亡Rの従妹T(Rの亡母Hの妹亡Kの子)に、亡Rの死を連絡した。Tは、亡Rの伯父J(亡Hの弟)に連絡した。

亡Rの遺言書はなく、相続人は明かでなく、遺産は、相続財産法人とされた(民法951条)。

家裁は、Jの申立により、相続財産管理人Sを選任し、公告をした(同952条)。

同公告後2か月以内に、亡Rの相続人の届出はなかった。

Sは、2か月を下回らない申出期間を定めて、亡Rの相続債権者・受遺者がいたら、Sに請求申出するよう、催告する公告をした(同957条)。

官報による。申出がされなければ、除斥される。

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亡Rの相続債権者・受遺者からの請求申出はなく、Sに知れた相続債権者・受遺者もいなかった。

家裁は、Sの申立により、6か月を下回らない期間を定めて、相続人の捜索の公告を行った(同958条)。

相続人からの届出はなく、仮に、いたとしても、相続権を行使することができなくなった。

相続人捜索公告の期間の満了後3か月以内に(同958条の3第2項)、Jが、家裁に、特別縁故者に対する相続財産分与の申立を行った(第1事件)。

その後、Jが死亡し、Jの妻A、子C(亡Rの従妹)、Cの夫でJ及びAの養子B、及び、子Dが、家裁に、第1事件の手続を受継する申立をした。

Tも、Jと同じく、家裁に、申立を行った(第2事件)。

3 裁判所は、何を認めたか?

家裁は、第1事件について、Aに45万円、Bに335万円、Cに15万円、そして、Dに15万円を分与することとし、第2事件について、Tに不動産、火災保険、及び、金400万円を分与することとした。

亡Rの相続財産は、不動産、火災保険、及び、預金約3600万円であった。

Jは、P家(亡Rの家系)の墓じまい費用等300万円を希望し、併せて、Tに、不動産、及び、その改修費用等を分与するよう希望した。

Tは、不動産、火災保険、改修費用等を希望し、のちに相続財産全部の分与を希望した。

Tは、特別縁故者の申立期間を逸したために申立することができなかった亡Rの伯父L(亡Hの兄)のために、Tへの分与審判を条件として、手取額の15%を贈与する契約をしていた。

家裁は、J、及び、Dの、亡Rとの関係や尽力など総合的に検討して、亡Rの特別縁故者であると認定した。

家裁は、第1事件について、亡Jの相続人A,B、C,及び、Dによる、Jが申立てた第1事件の手続の受継を認めた。

ただし受継者らへの分与は、「相当と認めるとき」(同958条の3第1項)に限り、行なわれるべきであり、亡Rと受継者らの間、及び、亡Jと受継者らの間の関係、亡Jが特別縁故者と認められる事情に対する受継者らの関わりの有無・程度等も勘案して判断することが相当であるとし、また、受継者らの亡Jの遺産相続の相続分には拘束されないとした。

そして、Bが、亡Jの遺志を引き継ぎ、P家の墓じまいや永代供養を行うために必要な費用、及び、尽力に対応する分として、Bに、320万円を分与することとした。

また、Aの生前、及び、死後におけるJによる尽力に対する謝礼の趣旨も勘案して、90万円を、A,B、及び、Cに、法定相続分に応じて分配することとした。

第2事件について、Tに対して、Rの生前の意向、及び、Tの希望を考慮して、不動産、火災保険、及び、金400万円を分与することとした。

なお、Tへの分与については、既に、Rがかけた多額の保険金を、Dが受領していたことも考慮された。

Tと、L及びQ(Lの妻)の間の停止条件付贈与契約については、その贈与契約分を、Tへの分与額に上乗せすることは、特別縁故者申立手続の申立期間の潜脱になるので、相当ではないとした。

処分されなかった財産は、国庫に帰属した(959条)

4 法律用語

⑴ 法人

   株式会社等、法律の規定によって成立し、自然人のように権利・義務の主体となる(同33条)。相続財産法人もそのひとつである(同951条)。

 ⑵ 特別縁故者

被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故がある者である(同958条の3)。被相続人との間に、具体的、現実的な縁故関係があり、相続財産を分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度の特別の関係があることが必要である(本裁判の説示)。

 ⑶ 受継

   裁判手続が、当事者の死亡等によって中断したとき、受け継ぐこと(民事訴訟法124条、家事事件手続法44条等)。

5 コメント

亡Rが、例えば、民法が定める方式に従って、「私の財産は、全部、Tに遺贈する。遺言執行者はTを指定する。」等という内容の遺言書を作成しておれば、特別縁故者の請求手続を、行わなくてもよかった。

公証役場で、公正証書遺言を作成すると、費用は、ある程度かかるが、最も確実だし、それほど難しいことではない。

また、法務局に遺言書を預けておくこともできる。

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