【労働組合:使用者が、労働委員会の救済命令を争った事件】

最高裁第2小法廷令和4年3月18日判決

(判例タイムズ1498号33頁)

1 ポイントは何か?

  • 労働組合の団体交渉権、使用者の団体交渉誠実応諾義務。
  • 団体交渉拒否の不当労働行為(労働組合法7条2号)。
  • 労働委員会の救済命令。

2 何があったか?

使用者X(国立大学法人山形大学)が、平成25年頃、及び、同26年頃、労働組合Z(同大学職員組合)に、団体交渉を申入れた。

交渉事項は、人事院勧告にならった、⑴平成26年1月1日から実施予定の、教職員のうち55歳を超える者の昇給抑制、及び、⑵平成27年4月1日から実施予定の、教職員の給与制度見直し(賃金引下げ)であった(以下、「本件各交渉事項」という。)。

XとZの団体交渉は、平成25年11月以降複数回行われた。

しかし、Xは、Zの同意が得られないまま、⑴については、平成27年1月1日から、⑵については同年4月1日から実施した(以下、「本件各実施」という。)。

Zは、Y県労働委員会に、平成27年6月22日、Xに対し、①誠実に団体交渉に応ずべき旨、及び、②不当労働行為の認定等を記載した文書を掲示すべき旨を命ずる救済命令の申立をした。

Y県労働委員会は、平成31年1月15日、同法27条の12の規定に基づき、①の申立を認め、Xに対し、本件各交渉事項につき、適切な財務状況等を提示するなどして、自らの主張に固執することなく、誠実に団体交渉に応ずべき旨の救済命令を発し(以下、「本件救済命令」という。)、②の申立は棄却した。

Xは、平成31年頃、本件救済命令の交付の日から30日以内に、同法27条19の規定に基づき、仙台地裁に、Y県を被告、Y県労働委員会を被告Y県代表者兼行政処分庁として、本件救済命令の取消の訴えを提起した。

Zが、Y県の補助参加人として補助参加した。

3 裁判所は、何を認めたか?

仙台地裁で令和2年5月26日、判決が下され(Y、及び、Zが勝訴)、判決書送達から2週間以内にXから控訴が提起され、仙台高裁で、令和3年3月23日判決が下された(X勝訴)。

仙台高裁判決(以下、「原判決」という。)は、本件救済命令は、本件各実施から4年前後経過し、XとZの間で有意な合意を成立させることは事実上不可能であったと認められるから、仮にXに不当労働行為があったとしても、Y労働委員会が、本件各交渉事項についての更なる団体交渉をすることを命じたことは、その裁量権の範囲を逸脱したものであると言わざるを得ない、とした。

これに対し、Y県が上告した。

最高裁では、原判決は破棄され、高裁に差戻された(Y、及び、Zが勝訴)。

最高裁は、昭和52年2月23日大法廷判決(民集31・1・93)を引用し、労働委員会に広い裁量権を認め、使用者が誠実交渉義務に違反している場合に、誠実交渉命令を発することは、一般に、労働委員会の裁量権の行使として、救済命令制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は、著しく不合理であって濫用にわたるものではない、とした。

ところで、団体交渉事項に関して合意が成立する見込みがないと認められる場合には、誠実交渉命令を発しても、労働組合が、労働条件等の獲得の機会を現実に回復することは期待できないともいえる。しかし、このような場合であっても、使用者が、その後、誠実に団体交渉に応ずるに至れば、労働組合は、当該団体交渉に関して、使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができるようになるとともに、組合活動一般についても、労働組合の交渉力の回復や、労使間のコミュニケーションの正常化が図られるから、誠実交渉命令を発することは、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることに資するものと言うべきである、とした。

4 法律用語

 ⑴ 被告Y県代表者兼行政処分庁Y県労働委員会

   地裁では、訴えを申立てたXが原告、申立を受けたY県が被告である。訴訟において被告を代表する者が、被告代表者である。

Y県は、地方公共団体であり、一般的には知事が代表者であるが、救済命令取消訴訟では、救済命令を発した行政処分庁であるY県労働委員会が、被告Y県の代表者である(行政手続法11条)。そのために、被告として、「被告Y県、代表者兼行政処分庁Y県労働委員会、同委員会代表者会長〇〇」と表記される。

 ⑵ 補助参加、補助参加人

   訴訟の結果について利害関係を有する第三者が、訴訟の当事者の一方を補助するために参加することを補助参加といい、補助参加する第三者を補助参加人という(民事訴訟法42条)。

5 コメント

使用者と労働組合の団体交渉は、どのように行われるべきか、また、誠実な団体交渉とはどういうものか、考えさせられます。

①使用者と労働組合が、相互に、対等な交渉力を持つこと。

②労使間のコミュニケーションの正常化が図られること。

③使用者から労働組合に対し、十分な説明や資料の提示を受けられること。

などが、考えられます。

本件では、仙台高裁は、労働委員会が誠実交渉命令を発しても、すでに年月を経ている場合は、事実上、団体交渉による合意の成立の余地はなく、命令の意味がないと考えました。使用者から労働組合に対して、団体交渉を求めた事実があり、本件各実施は、人事院勧告に倣うものであるし、すでに本件実施から4,5年経過したら既定の事実であるし、労働委員会の救済命令で、使用者に対し、誠実な団体交渉を命じても全く意味がないというのも、一見、常識的だと思います。

しかし、最高裁は、当該団体交渉による合意の成立の余地がないとしても、不当労働行為があったとすれば、労働委員会が誠実交渉命令を発することによる、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという意味は失われないと考えました。そうでなければ、不当労働行為があっても、既成事実を積み重ねていけばよいということになります。

誠実団体交渉義務違反により、労働組合が受けた損害について、不法行為に基づく損害賠償請求をすることも考えられます。

(参考:東京地方裁判所平成19年3月16日判決 損害賠償等請求事件)(通称 スカイマーク団交拒否損害賠償)

036377_hanrei.pdf (courts.go.jp)