【遺産分割:相続人の一人が偽造の遺産分割協議書を利用して自分の単独相続として登記し第三者に譲渡した事件】


1 ポイントは何か?

  遺言執行者が相続財産土地について遺言に反する登記がされているとして抹消登記手続を求めることができるか。

2 何があったか?

  亡Bは平成20年に死亡し、相続人は妻Aと子らF(参加人)及びCであったがCは相続放棄した。

Aは平成21年、全財産をCに2分の1、Cの子Dに3分の1、Fの子Eに6分の1相続させる公正証書遺言を作成した。AはFには相続させない。

Fは、平成23年1月、偽造によるAとFとの遺産分割協議書を用いてFに亡Bの相続財産土地の全部の所有権移転登記手続をした。

Aは、同年2月死亡した。Eは、Aの遺贈を放棄した。

Gは、同年3月、東京家庭裁判所によりAの公正証書遺言の遺言執行者に選任された。

F(売主)とY1ないし3(買主)は、本件土地の売買契約を締結し、同年6月、Y1ないし3に所有権移転登記手続をした。本件土地はY1ないし3の共有土地として登記された。

GはY1ないし3らを被告として本件相続財産土地の所有権移転登記抹消登記手続を請求した。

3 裁判所は何を認めたか?

  G一部勝訴。

  原審東京高等裁判所は、本件土地の持分2分の1はAの相続財産であるとしてY1ないし3に対し、本件土地の合計持分2分の1の限度でGの請求を認容した。

  最高裁判所は原審判決を変更し、Y1ないし3の合計持分150分の100(Cの持分2分の1×2分の1+Eの持分6分の1×2分の1=3分の1に相当)ついてGには当事者適格がないとして却下、Y1ないし3に対し合計持分120分の100(Dの持分3分の1×2分の1=6分の1に相当)を抹消する内容の更正登記手続を命じ、その余棄却。

4 コメント

  私は、亡Aの遺言執行者Gは亡Aの遺産全部について亡Aの遺言に従った執行を行う権利義務があると思うので、本件土地の持分2分の1がAの遺産だから、2分の1の限度で抹消登記ないし更正登記を求めることができるとした原審東京高裁の判決が正しいと思う。しかし、最高裁判所は、Gには、Cの相続分の指定分2分の1やEが放棄した包括受遺分6分の1については遺言執行の権利も義務もないとして当事者適格を認めず、Dの包括受遺分3分の1(したがって本件土地全体の6分の1)についてしか遺言執行者としての権利義務を認めなかった。民法1012条の「執行に必要な一切の行為」をどのように理解すべきか苦しむものである。

以上

※付記、重要な判断事項

(遺言執行者の権利義務について)

「遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、遺言の執行に必要な場合には、遺言の内容に反する不動産登記の抹消登記手続を求める訴えを提起することができる(最高裁昭和51年(オ)第17号同年7月19日第 二小法廷判決・民集30巻7号706頁、最高裁平成10年(オ)第1499号、 第1500号同11年12月16日第一小法廷判決・民集53巻9号1989頁参照)。」

但し、後記(本件遺言執行者の原告適格について)の⑴のイ参照。

(Aの作成した公正証書遺言の意味について)

「本件遺言は、Aの一切の財産をCに2分の1の割合で 相続させるとの部分(以下「本件遺言部分1」という。)、上記財産をDに3分の 1の割合で遺贈するとの部分(以下「本件遺言部分2」という。)及び上記財産を Eに6分の1の割合で遺贈するとの部分(以下「本件遺言部分3」という。)から成っている。そして、このような本件遺言の内容等に照らすと、その趣旨は、Aの 相続財産の3分の1をDに、6分の1をEにそれぞれ包括遺贈し、共同相続人であるCの相続分をその余の相続財産(相続財産の2分の1)と指定するものであると解される。」

(本件遺言執行者の原告適格について)

⑴ 本件遺言部分1

ア 本件遺言部分1は、Cの相続分を相続財産の2分の1と指定する旨の遺言であると解される。

  イ 共同相続人は、相続開始の時から各自の相続分の割合で相続財産を共有し(民法896条、898条1項、899条)、相続財産に属する個々の財産の帰属は、遺産分割により確定されることになる。被相続人は、遺言で共同相続人の相続分を指定することができるが(同法902条1項)、相続分の指定がされたとしても、共同相続人が相続開始の時から各自の相続分の割合で相続財産を共有し、遺産分割により相続財産に属する個々の財産の帰属が確定されることになるという点に何ら変わりはない。また、相続分の指定を受けた共同相続人は、相続財産である不動産について、不動産登記法63条2項に基づき、単独で指定相続分に応じた持分の移転登記手続をすることができるし、改正法の施行日前※に開始した相続については、上記共同相続人は、その指定相続分に応じた不動産持分の取得を登記なくして第三者に対抗することができるから(最高裁平成元年(オ)第714号同5年7月19日第二小法廷判決・裁判集民事169号243頁参照)、遺言執行者をして速やかに上記共同相続人に上記不動産持分の移転登記を取得させる必要があるともいえない。以上によれば、改正法の施行日前に開始した相続に係る相続財産である不動産につき、遺言により相続分の指定を受けた共同相続人に対してその指定相続分に応じた持分の移転登記を取得させることは、遺言の執行に必要な行為とはいえず、遺言執行者の職務権限に属しないものと解される。

※改正前民法1013条は現在の同条第1項のみであり、相続財産の処分権は遺言執行者に属し、善意の第三者保護規定もなかった。

ウ したがって、被上告人は、本件遺言部分1を根拠として、本件登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するものではない。

⑵ 本件遺言部分2

ア 本件遺言部分2は、Aの相続財産の3分の1をDに包括遺贈する旨の遺言であると解される。

イ 不動産又はその持分を遺贈する旨の遺言がされた場合において、上記不動産につき、上記の遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に受遺者以外の者に対する所有権移転登記がされたときは、遺言執行者は、上記登記の抹消登記手続又は上記持分に関する部分の一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有すると解される(前掲最高裁昭和51年7月19日第二小法廷判決参照)。相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合についても、これと同様に解することができる(最高裁同年(オ)第190号同年7月19日第二小法廷 判決・裁判集民事118号315頁参照)。そして、以上のことは、審理の結果、遺言執行者が抹消登記手続を求める不動産が相続財産ではないと判断された場合で あっても、異なるものではないというべきである。そうすると、・・・上記登記のうち上記不動産が相続財産であるとすれば包括受遺者が受けるべき持分に関する部分の抹消登記手続又は一部抹消(更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有すると解するのが相当である。

 ウ 以上によれば、被上告人は、上告人らに対し、本件登記のうち本件土地がAの相続財産であるとすればDが受けるべき持分3分の1に関する部分の一部抹消 (更正)登記手続を求める訴えの原告適格を有するということができる。 他方、前記事実関係の下において、本件遺言部分2の執行のために、本件登記のうち本件土地の上記持分3分の1を除くその余の持分に関する部分の抹消を求める 必要があると解すべき事情はうかがわれないから、被上告人が、本件遺言部分2を 根拠として、本件登記の抹消登記手続請求のうち本件土地の上記持分3分の1を除くその余の持分に関する部分に係る訴えについて原告適格を有するとはいえない。

⑶ 本件遺言部分3 ア 本件遺言部分3は、Aの相続財産の6分の1をEに包括遺贈する旨の遺言であるが、上記の包括遺贈は、Eの放棄によってその効力を失ったものと解される。したがって、上記包括遺贈について遺言執行の余地はなく、被上告人は、本件 遺言部分3それ自体を根拠として、本件登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するものではない

判例

令和4(受)540  3番所有権抹消登記等請求事件
令和5年5月19日  最高裁判所第二小法廷  判決  その他

相続でお悩みの方

相続は故人の財産や権利を後継者に引き継ぐ制度ですが、トラブルを避けるためには生前に意思を明確にしておくことが大切です。これには遺言が有効です。しかし、遺言がない場合も法律で公平な遺産分割が保障されています。遺言作成、内容に関する悩み、遺産分割、相続人の不明、祭祀財産の承継、相続放棄、故人の負債に関して困っている方は、川崎市の恵崎法律事務所までご相談ください。