1 ポイントは何か?
遺言執行者の権利義務
民法1040条1項本文の類推適用
権利濫用、寄与分の抗弁
2 何があったか?
被相続人亡Dの相続人は子らであるE、B3、F、C(補助参加人)、G、H、養子A1(B3の子)、長男亡Iの子らで代襲相続人のB1及びB2(当事者参加人ら)ら9名である(E、F、C、G、及びHを「Eら」という)。
亡Dは、B3に財産全部を相続させる遺言(旧遺言)をしたが、のち新遺言で相続財産中土地2ないし5をB3及びA1に2分の1ずつ相続させ、遺言執行者にB4を指定する等の遺言(新遺言)をした。
B3は、旧遺言を用いて全部の相続財産中土地を自己名義に所有権移転登記手続をし、のちに相続財産土地2ないし5についてA1に真正なる登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をした。
B1及びB2は、他の相続人及びB4に対し遺留分減殺請求権を行使した。
(当事者らの請求と相手方の反論)
① B4はB3に対して、本件1土地についてEらへの、本件2土地の2分の1の持分についてA1への各持分移転登記手続きを求めた。B3は、「相続させる遺言」の場合、遺言執行の余地はない、EらはB3に相続分の放棄又は譲渡をし、本件土地1の共有持分権を失ったなどと反論。
② B1及びB2は、本件各土地について各32分の1の持分権を取得したとしてB4に対しその確認を(②の1)、B3に対しその確認と持分移転登記手続きを求めた(②の2)。B3は、B1及びB2の権利濫用、B3寄与分、EらはB3に相続分の放棄又は譲渡をしたから、民法1040条1項本文により、B1及びB2はB3に対して本件土地1につき遺留分相当共有持分返還等請求ができないと反論。
③ B1及びB2は、本件土地3ないし5についてA1に対しその確認と持分移転登記手続きを求めた。A1は、B1及びB2の権利濫用と反論。
3 裁判所は何を認めたか?
⑴ 原審東京高等裁判所
上記①及び②の1を、B4に当事者適格がないとして却下し、②の2及び③を認容した。
⑵ 最高裁判所
②の2及び③のうち、本件土地3から5について持分権確認及び持分移転登記手続きを求める部分を棄却し、その余の部分を破棄し原審に差し戻した。
一部棄却した理由は、権利濫用及び寄与分の抗弁は認めず、民法1040条1項本文が類推適用されるとした。
4 コメント
非常に複雑な事案であるが、最高裁判の遺言執行者の権利義務、1040条1項本文の類推適用の判示を納得できる。遺言執行者の権利義務について令和5年最高裁判決が当判決の遺言執行者権利義務論を踏襲しているとは思えないがどうだろうか。よく読み比べてみる必要がある。
以上
※付記、重要な判断事項
(B4の当事者適格)
「特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言) は、特段の事情がない限り、当該不動産を甲をして単独で相続させる遺産分割方法の指定の性質を有するものであり、これにより何らの行為を要することなく被相続人の死亡の時に直ちに当該不動産が甲に相続により承継されるものと解される(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号 477頁参照)が、不動産取引における登記の重要性にかんがみると、相続させる遺言による権利移転について対抗要件を必要とすると解すると否とを問わず、甲に当該不動産の所有権移転登記を取得させることは、民法1012条1項にいう「遺言の執行に必要な行為」に当たり、遺言執行者の職務権限に属するものと解するのが相当である。もっとも、登記実務上、相続させる遺言については不動産登記法27条により甲が単独で登記申請をすることができるとされているから、当該不動産が被相続人名義である限りは、遺言執行者の職務は顕在化せず、遺言執行者は登記手続をすべき権利も義務も有しない(最高裁平成3年(オ)第1057号同7年1月24日第三小法廷判決・裁判集民事174号67頁参照)。しかし、【要旨】本件のように、甲への所有権移転登記がされる前に、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、右の妨害を排除するため、 右所有権移転登記の抹消登記手続を求めることができ、さらには、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできると解するのが相当である。この場合には、甲において自ら当該不動産の所有権に基づき同様の登記手続請求をすることができるが、このことは遺言執行者の右職務権限に影響を及ぼすものではない。」として、①について、B4は、新遺言に基づく遺言執行者として、一審被告B3に対する本件訴えの原告適格を有するとし、②の1については、本件土地1及び2についてはB4の当事者適格を認め、その他の各土地については認めなかった。
(1040条1項本文の類推適用)
②の2及び③のうち本件土地3ないし5については、「特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言(相続させる遺言)がされた場合において、遺留分権利者が減殺請求権を行使するよりも前に、減殺を受けるべき甲が相続の目的を他人に譲り渡したときは民法1040条1項が類推適用され、遺留分権利者は、譲受人が譲渡の当時遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合を除き(同項ただし書)、甲に対して価額の弁償を請求し得るにとどまり(同項本文)、譲受人に対し遺留分に相当する共有持分の返還等を請求することはできないものと解するのが相当である。また、同項にいう「他人」には、甲の共同相続人も含まれるものというべきである」として、棄却し、B3に対する本件土地1及び2について及びÅ1に対する本件土地2についてはEらがB3に相続分を放棄等したかさらに審理する必要があるとして原判決を破棄差戻した。
判例
平成10(オ)1499 土地所有権移転登記手続請求及び独立当事者参加並びに土地共有持分存在確認等請求事件
平成11年12月16日 最高裁判所第一小法廷 判決 その他
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