【行政処分事件:映画制作会社が映画出演者のコカイン使用による有罪判決にもかかわらず芸術文化振興基金の助成金を請求したが敗訴した事件】東京高裁判決

1 ポイントは何か?

  映画「宮本から君へ」の制作活動について出演者のひとりがコカイン使用で有罪となったことから、同出演者の出演時間は129分の内11分に過ぎないがストーリーの上で重要な役割を果たしている等からみて、同映画への助成金の支給は薬物乱用防止という公益に反するとして独立行政法人日本芸術文化振興協会理事長が行った助成金不支給処分に裁量権の逸脱、濫用はないとした東京高裁判決である。

ただし、この結論は最高裁で破棄されている。しかし、「公益」についての重要な判断を含んでおり、参考にしたい。

2 何があったか?

  同協会理事長が映画「宮本から君へ」の制作に対する助成金を不支給とする処分を独断でしたのかが問題となったが、日本芸術文化振興協会は、担当者が,令和元年7月2日から同月4日にかけて,基金運営委員会、部会、専門委員会の委員ら合計21名に架電し,本件交付申請に対し公益上の理由により助成金を交付しない方針であると伝えたが,反対の意見を明らかにした者はいなかった等、反論した。

3 裁判所は何を認めたか?

   日本芸術文化協会の逆転勝訴(但し、最高裁判訴で再逆転敗訴)

   (判決文抜粋)

  「本件要綱4条が定める「基金運営委員会の議」は 芸術的観点からの専門的知見に基づく評価を示すものとして,控訴人理事長が判断をする際の考慮要素の一つとして十分に尊重すべきものではあるけれども,控訴人理事長が芸術的観点以外の考慮要素に基づいて本件助成金の交付又は不交付をする際の裁量についてまで制約するものとはいえない。」

「薬物乱用の防止という公益が抽象的な概念であって,本件助成金の交付又は不交付の判断の考慮要素たり得ないということはできない。」

4 コメント

  令和4(行ヒ)234最高裁判決の事実関係と問題点についての細かい部分がわかりました。「公益」は抽象的概念であるから、表現の自由との関係では具体的に論じなければなりません。

判例

令和3(行コ)180  助成金不交付決定処分取消請求控訴事件
令和4年3月3日  東京高等裁判所  

(令和4(行ヒ)234最高裁判所第二小法廷令和5年11月17日判決の原審東京高等裁判所の判決である。)