最高裁判所第三小法廷 令和5(行ヒ)397 生活保護基準引下げ処分取消等請
求事件令和7年6月27日判決(原審、大阪高等裁判所)
1 ポイントは何か?
厚生労働大臣の裁量権
2 何があったか?
厚生労働大臣が平成25年から27年にかけて、委員会に諮問せず、物価水準
統計に基づいて生活保護基準を引き下げた。
それに基づき、各市の所轄の福祉事務所長らが、Aら生活保護受給者の生活保
護費を減額する保護変更決定をした。
Aらが⑴各市に決定の取消を求め、⑵国に対し国賠法に基づく損害賠償請求を
した。
3 裁判所は何を認めたか?
最高裁判所は、⑴の一部を認め、⑵を斥けた。
⑴ 生活保護費の減額変更処分のうちいわゆる「ゆがみ調整」(いわゆる2分
の1処理)は、平成25年検証の結果に統計等の客観的な数値等との合理的関
連性や専門的知見との整合性に欠けるところは見当たらないとして除外し、い
わゆる「デフレ調整」は物価変動率を指標として基準生活費を一律に
4.78%減ずるもので、3年間かけて段階的に実施するものであり、減額幅
の上限を10%としているが、一般低所得世帯の生活扶助相当支出額との不均
衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いたことに、専門的
知見との整合性を欠くところがあり、厚生労働大臣の判断の過程及び手続には
過誤、欠落があったものというべきであるとして、それに基づく生活保護の減
額処分を取消したものである。
⑵しかし国の国家賠償法上の違法との認定は、厚生労働大臣が職務上通常尽く
すべき注意義務を尽くすことなく漫然と本件改定をしたと認め得るような事情
がある場合に限るとし、そのような事情はないとした。
しかし、裁判官林道晴の補足意見は、国に今後は丁寧な説明をするよう勧め
ている。
また、裁判官宇賀克也の反対意見は、⑴及び⑵とも全面的にAらの勝訴とす
べきとする。そして、宇賀は、次のような事実を明らかにする。➀総務省
CPIを用いると物価下落率は2.35%だが、厚労省が独自に計算した生活
扶助相当CPIを用いると物価下落率は4.78%と2倍以上になった。➁本
件改定以前に加算部分を除いた生活扶助基準の引下げが行われたのは2回のみ
で、いずれも1%未満(それぞれ0.9%と0.2%。)であったが、本件の
デフレ調整による引下げは、3年間にわたり最大10%(年平均6.5%)、
総額670億円に及び、期末扶助手当70億円も削減されたので、総額740
億円(年平均7.3%)という大規模な減額であった。➂そして、多人数世帯
や子育て世帯ほど削減率が大きかったが、激変緩和措置として減額幅の上限を
10%に設定したため、 激変緩和措置の対象となった被保護者世帯は約2%
にとどまった。④また、平成20年を物価下落率算定の起算点とすれば、同年
の特異な物価上昇が織り込まれて物価の下落率が大きくなることは、本件改定
が始まった平成25年には明らかであった。
一般国民は知るべきだ。
4 コメント
ようやく最高裁判決が下された。しかし、一体、どのようにして支払われるこ
とになるのか。以上