【損害賠償:建物購入者が設計者及び施工者らに瑕疵修繕代金相当額の不法行為に基づく損害賠償を請求した事件の第2次上告審判決】

1 ポイントは何か?

最高裁平成17年(受)第702号同19年7月6日第二小法廷判決(原判決破棄差戻)・民集61巻5号1769頁を第1次上告審判決とする第2次控訴審は、第1次上告審判決が建物の瑕疵の判断基準として示した「建物としての基本的な安全性を損なう」とは「現実的危険」を言うとして建物所有者から設計者及び施工者らに対する損害賠償請求を棄却したが、本件第2次上告審の判決は、「抽象的危険」で足りるとして第2次控訴審の判決を破棄し、再度、原審に差し戻した。

2 何があったか?

  Ⅹは、建築主から本件建物をAと共同購入後、Aの持分を相続し単独所有となった。Ⅹは、本件建物の設計者及び施工者らに対し不法行為に基づく損害賠償として瑕疵修補費用相当額を請求した。なお、本件建物は、第1審(地方裁判所)訴訟係属中に競売によりⅩから第三者に売却済である。

3 裁判所は何を認めたか?

  1.  第2次控訴審である原審は,第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,建物の瑕疵の中でも,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいうものとし、本件建物が売却された日までに上記瑕疵が存在していたとは認められないと判断してⅩの請求を棄却した(現実的危険説)。
  2.  第2次上告審である本件最高裁判所判決は、第2次控訴審である原判決を破棄し、原審に差し戻した。

ァ 第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険がいずれ現実化することになる場合も該当する(抽象的危険説)。具体的には、当該瑕疵を放置した場合、建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる場合や、構造耐力に関わらないが、外壁が剥落して通行人の上に落下したり,開口部等の瑕疵により建物の利用者が転落し人身被害につながる危険があるときや,漏水、有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときにはこれに該当するが、建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵はこれに該当しない。

イ 建物の所有者は,「特段の事情」がない限り,当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができる。上記所有者が、売却等により、その所有権を失った場合でも,その際,修補費用相当額の補填を受けたなど特段の事情がない限り、一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではない。

4 コメント

  第1審係属中に本件建物が競売により売却されたとのことであるが、第2次控訴審判決は、破棄自判であり、第2次第1審はなかったはずであるから、競売が行なわれたのは、第1次第1審のことであろう。

競売等により建物所有権が第三者に移転した場合の、旧建物所有者の損害賠償請求権と、新建物所有者の損害賠償請求権の関係、ないし旧所有者、新所有者、設計者、施工者、工事管理者の相互関係ははどうなるのだろうか。

判例

平成21(受)1019  損害賠償請求事件
(第2次上告審)最高裁判所第一小法廷平成23年7月21日判決

(第2次控訴審) 福岡高等裁判所