建造物損壊被告事件
最高裁判所第三小法廷 平成18年1月17日決定(棄却)
原審 東京高等裁判所
第一審 東京地方裁判所 平成16年2月12日判決
(最高裁判所HPの裁判例検索を開き、「建造物損壊」と「スプレー」で検索)
1 ポイントは何か?
⑴ 器物損壊と建造物損壊の違い
⑵ 現行犯逮捕
⑶ 政治的動機
2 何があったか?
⑴ 本件建物は、区立公園内に設置された公衆便所であるが、公園の施設に相応しいように、その外観、美観には相応の工夫が凝らされていた。
⑵ 被告人は、夜間にイラク戦争のことなどを考えているうち、自分の戦争反対のメッセージを落書きしようと思い立った。
⑶ 被告人は、本件建物の白色外壁に、赤色及び黒色のペンキのスプレーを吹き付け、既に「悪」、「タツ」などの落書きがされていた一部の個所を除いて、ほとんど埋め尽くすような形で、「反戦」、「戦争反対」及び「スペクタクル社会」と大書した。
⑶ 水道水や液性洗剤で消去することは不可能であり、ラッカーシンナーによっても完全に消去することはできず、壁面の再塗装に約7万円の費用を要した。
3 裁判所は何を認めたか?
懲役1年2月、執行猶予3年
⑴ 弁護人は、公衆便所としての効用は害されていないので、建造物損壊には当たらない旨主張した。
しかし、裁判所は、建物の外観ないし美観を著しく損ね、原状回復に総統の困難を生じさせたことから建造物損壊に当たるとした。
器物損壊罪の法定刑は、3年以下の懲役または30万円以下の罰金若しくは科料であるが、建造物損壊罪の法定刑は5年以下の懲役であり、罰金刑や科料がない。
⑵ 警察官は、住民の通報を受けて、罪を行い終わった現行犯人として逮捕したのであり、違法逮捕ではない。
⑶ 被告人の政治的信条と建造物損壊は別問題であり、検察官の起訴に権限の濫用はない。
4 コメント
有名な落書き画家であるバンクシーの落書きは、事前承諾はないが、事後承諾があったと考えられる。
本件のような場合、事前のみならず事後承諾も考えられないので、被告人は、直ちに自首し、謝罪し、原状回復費用を支払って示談することが望ましい。
以上
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