昭和35年(オ)第201号 請求異議上告事件
最高裁判所第一小法廷昭和36年3月2日判決(上告棄却)
原審 東京高等裁判所
(最高裁HP、裁判例検索)
1 ポイントは何か?
⑴ 債務名義。
⑵ 可分債権と不可分債権。
⑶ 不可分債権の相続。
⑷ 不可分債権の準共有。
2 何があったか?
⑴ 土地所有者Dが、建物所有者Xに対する、建物収去土地明渡請求事件の勝訴判決(強制執行の債務名義となる。かつ、不可分債権である。以下、「本件債務名義」という。)を得た。
⑵ Dが死亡し、相続人B1、B2、E、F、G及びHの6名が本件土地及び本件債務名義を相続した。
⑶ Eが死亡し、B3が相続した。
⑷ Xは、F、G及びHの相続分を買取った。
⑸ B1、B2およびB3が、Xに対し、本件債務名義により、建物収去土地明渡の強制執行を申立てた(以下、「本件強制執行」という。)。
⑸ Xは、B1、B2およびB3に対し、建物買取請求権を行使し、本件建物は、Xは、B1、B2およびB3の共有となった。
⑹ Xは、本件強制執行に対し、請求異議の申立をした(本件請求異議訴訟)。
3 裁判所は何を認めたか?
X敗訴。
⑴ 本件債務名義は、不可分債権であり、相続人らの準共有となる。
⑵ 相続人らは、各自、民法429条の法意に従い、相続した不可分債権の全部の履行を請求することができる。
4 法律用語
⑴ 「共有」 不動産などについて、複数の所有者がいること。
⑵ 「準共有」 本件債務名義など、不可分債権などについて複数の権利者がいること。
⑶ 「民法429条の法意に従い」
民法429条の条文は、「不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても、他の不可分債権者は、債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては、その一人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益を債務者に償還しなければならない。」である。
その法意とは、不可分債権者は、本来、各自が、債務の全部を請求することができるというものであろう。
Xが、F、G及びHの相続分を買い取ったことで、Xと、F、G及びHの間では、不可分債権者の立場と債務者の立場の混同が生じている。しかし、その場合にも、B1、B2およびB3ら他の不可分債権者は、Xに対し、債務の全部の履行を請求することができるということである。
5 コメント
Xが、本件強制執行を食い止め、本件建物を残すためには、どうすればよかったのだろうか。
Dに敗訴する前に、Dと和解をすること。
本件強制執行が終了する前に、B1、B2およびB3と和解し、本件土地の持分の売買契約、本件土地の賃貸借契約あるいは地上権設定契約のいずれかを締結して、本件債務名義の放棄を得ること。
民法429条の法意に従うとは、Xにとって、何ともシビアだ。Xにとっては、あきらめきれまい。しかし、このような条文があることを忘れてはならない。
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