【労働:新型コロナ禍で事業縮小のために従業員を解雇した事件】

地位確認請求事件

東京地裁、令和3年12月21日判決

(労働判例1266号74頁)

1 ポイントは何か?

⑴ 企業は、事業の縮小、廃止の経営判断を、自由にできるか。

⑵ そのために、従業員を解雇することも自由か。

⑶ 従業員の解雇については、事業の完全停止という本件の特性から、整理解雇のいわゆる4要件を緩めて、①事業停止の必要性と②解雇の手続の相当性から相関的に判断すべきか。

⑷ 整理解雇が有効であるためのいわゆる4要件

  ① 人員削減の必要性

  ② 解雇回避の努力

  ③ 誰を解雇するかの選定の妥当性

  ④ 解雇手続の正当性

2 何があったか?

Yは、全国に飲食店約300店舗を展開していた。

Xは、Yと労働契約を締結したYの店舗Aの従業員である。

Yは、令和2年4月上旬ころ、新型コロナ禍により、全店舗を閉鎖するとともに、約10店舗を残し、店舗Aを含む残りの店舗経営からは撤退することを決めた。

Yは、Xを含む解雇対象となった従業員に対し、令和2年6月18日ころ、同年7月20日付けで解雇するとの解雇予告通知書を送付した。

Xは、Yを被告として、地裁に、XがYに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、未払賃料等の支払を求める訴えを提起した。

Xは、いわゆる整理解雇の4要件を主張し、Yは、事業停止の必要性と手続の相当性から相関的に判断すべきと主張した。

3 裁判所は何を認めたか?

原告の勝訴。

⑴ 企業は、事業の縮小、廃止の経営判断を、専権的にかつ、自由に行うことができる。

⑵ しかし、解雇は、労働者から生活の手段を奪うなど、その生活に深刻な影響を及ぼすものであるから、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当なものでなければならず、これらを欠く場合には、解雇権を濫用したものとして、無効となる(労働契約法16条)。

⑶ 裁判所は、Yの主張を斥け、整理解雇が有効であるためのいわゆる4要件について考慮する必要性がないとは言えないとした。

⑷ 裁判所は、整理解雇が有効であるためのいわゆる4要件について、次の通り、判断した。

  ① 人員削減の必要性については、高かった。

  ② 解雇回避の努力については、他に取りうる手段は限定的であった。

  ③ 誰を解雇するかの選定の妥当性については、Xを選定したことは、不合理とは認められない。

  ④ 解雇手続の正当性については、労働者に対する説明会を開くことが困難でも、個別の労働者との間で、十分な説明・協議をする機会を設ける必要がある。

Xに対する説明・協議の機会は不十分であり、手続として著しく妥当性を欠き、信義に従い、誠実に解雇権を行使したとは言えない。したがって、本件解雇は、解雇権の濫用として、無効である。

4 コメント

新型コロナ禍や、ロシアのウクライナ侵攻の影響で、いまや中小企業は、いずこも大変な状況にある。しかし、その場合でも、整理解雇のいわゆる4要件は回避することができず、労働者に対する説明責任は、尽くさなければならない。

本件では、Yは、取締役は代表取締役を除いて全員退任し、自己破産の手続きをとったようである。Yには、それ以外の道は、なかったのだろうか。

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