1 ポイントは何か?
遺産分割協議における養老保険金、養老生命共済金の扱い。
2 何があったか?
甲と乙の子はA及びBらである。
乙は乙の死亡によりAを受取人とする養老保険2口合計約570万円をかけた。
甲は乙の死亡により甲を受取人とする養老生命共済約220万円をかけた。
甲は平成2年1月2日に死亡し、相続人は乙、A及びBらである。甲が乙にかけた養老生命共済の停止条件付受取人の地位は甲の被相続財産に残った。
乙は同年10月29日に死亡し、相続人はA及びBらである。Aは乙がかけた養老保険金を受け取った。
養老生命共済金が甲の被相続財産となった。
Bらは、Aとの遺産分割協議において、養老保険金及び養老生命共済金はいずれも民法903条1項の特別受益に該当すると主張した。
3 裁判所は何を認めたか?
⑴ 原審 大阪高等裁判所
いずれも特別受益に配当しないとした。
民法903条1項に規定する遺贈又は生活の資本としての贈与には該当しない。したがって死亡保険金等を遺産額に加えない。
⑵ 最高裁判所
特別受益に配当しないとした。
死亡保険金は受取人の固有の権利であり(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三 小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)。保険料と保険金が等価関係に立たない等から(最高裁平成11年(受)第1136号同14年11月5日第一小法廷判決・民集 56巻8号2069頁参照)、相続財産に属しない。
民法903条を類推適用すべき特段の事情もない(特段の事情とは、保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきであるとする。)。
死亡共済金の受取人は甲であるから、民法903条の類推適用を論ずる余地もない。
4 コメント
生命保険金や生命共済金が受取人の固有の権利であることについてはほとんど異論のないところであると思われる。
しかし、本件最高裁決定は、特段の事情によっては民法903条の類推適用の余地があるとの含みを残している。しかし私が裁判所HP裁判例検索で調べた限りでは、本件最高裁決定以外にそれを論じた裁判例はなさそうである。しかし、その含みを残した意味は大きいだろう。
参考 民法906条 民法 | e-Gov法令検索
以上
平成16(許)11 遺産分割及び寄与分を定める処分審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件
平成16年10月29日 最高裁判所第二小法廷決定(棄却)
原審 大阪高等裁判所
(裁判所HP裁判例検索)
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