【性同一性障害事件: 性別変更審判で生殖腺がないことを条件とすることが憲法13条に違反するとされた事件】

1 ポイントは何か?

 ⑴ 性別取扱い特例法3条の性別変更の審判の同条1項4号の生殖腺がないこと等の要件の憲法13条違反。

  性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 | e-Gov法令検索

⑵ 2019年(令和元年)5月に承認されたICD第11回改訂版におい て、性同一性障害は「性の健康に関する状態」に分類されるようになり、名称が「性同一性障害」から「性別不合」に変更された。

JISHA:海外事情・国際協力 国際疾病分類の第11回改訂版(ICD-11)

 ⑶ 2014年(平成26年)に世界保健機関等の共同反対声明

⑷ 2017年(平成29年)に欧州人権裁判所が欧州人権条約違反判決

2 なにがあったか?

  Aは精巣除去手術を受けずに家庭裁判所に性別変更審判(男性から女性に)を申し立てた。

3 裁判所は何を認めたか?

 ⑴ 第1審家庭裁判所

   A敗訴。

 ⑵ 原審 広島高等裁判所岡山支部

   A敗訴。 

 ⑶ 最高裁判所

   A勝訴。原判決破棄、差戻し。

   特例法3条1項4号の規定は憲法違反である。

(なお、Aは「その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。」と規定する特例法3条1項5号の規定も憲法13条、14条1項に違反する旨の主張をしたが、原審も最高裁判所もこれについては判断していない。)。

反対意見、補足意見あり。

裁判官岡正晶の補足意見は、国会に法改正を期待するもの。

裁判官三浦守の反対意見は、性同一性障害を有する 者にとって生活上欠くことのできないトイレの利用は、性別変更審判の有無に関わ らず、切実かつ困難な問題であり、多様な人々が共生する社会生活の在り方として、個別の実情に応じ適切な対応が求められるとする。そして、裁判官草野耕一の反対意見(号規定が合憲とされる社会よりも違憲とされた社会の方がよりよい社会であるとする)及び裁判官宇賀克也の反対意見とともに、4号とともに5号を違憲とし、Aの申立を認める決定を下すことが相当とする。

裁判官宇賀克也の反対意見で、①リプロダクティブ・ライツについての理解(2011年(平成23年)、ドイツ の連邦憲法裁判所は、性別取扱いの変更について生殖能力喪失を要件とする規定を違憲とし、人間の生殖能力は、基本法2条2項によって保護されている身体不可侵の権利の要素であると)。③身体への侵襲を受けない自由との関連で問題になるのは本件規定及び5号規定 に限られるが、性自認に従った法令上の性別の取扱いを受ける権利が憲法13条に より保障された基本的人権であるとすれば、特例法3条1項の他の規定に関して も、基本的人権への制約が許されるかが問われることになると。

4 コメント

  最高裁のHP裁判例検索の最近の最高裁判例欄に判決同日に判決文が掲載されました。新聞には翌朝(今朝)報道されました。

  裁判官宇賀克也の反対意見で、「いささかでも外延 が不明確であれば、憲法13条後段に基づく新しい基本的人権として認めないとい う考えをとれば、憲法に列挙されていない新しい基本的人権はおよそ考え難いことになる。」として「みだりにその容貌、姿態を撮影されない自由」(最高裁昭和40年 (あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625 頁)、「みだりに指紋の押なつを強制されない自由」(最高裁平成2年(あ)第8 48号同7年12月15日第三小法廷判決・刑集49巻10号842頁)、「個人 に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」(最高裁平成19年 (オ)第403号、同年(受)第454号同20年3月6日第一小法廷判決・民集 62巻3号665頁)にしても、いずれも「みだりに」という不確定概念が用いら れており、何が「みだりに」に当たるかは決して一義的に明確ではなく、その外延をめぐり学界で多様な議論があり、また、訴訟で争われることがある」のであり、「変動する外延を確定していく努力は、判例や学説に委ねざるを得ないで あろう。」と指摘されている。今後、検討する必要がある。

判例 

令和2(ク)993

性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件

令和5年10月25日  最高裁判所大法廷  決定  破棄差戻

原審  広島高等裁判所  岡山支部