【専門学校校則違反事件:専門学校の学生が信仰を理由に剣道実技の必須授業を拒否して進級停止、退学命令処分を受けた事件】

1 ポイントは何か?

  高等専門学校の校長には進級拒否処分や退学命令処分について教育的裁量権があるが、本件は、高等専門学校の学生が信仰上の理由から体育の必須授業とされた剣道実技を拒否したことにより同校の学則に基づいて進級停止、退学命令処分を受けた事件であり、最高裁判所は校長の裁量権の範囲を超えた違法があるとして各処分の取消しを認めた事件である。

2 何があったか?

  D高等工業専門学校は、平成2年に第1学年の体育に必須科目として剣道の実技を取り入れた。同学校では必須科目をひとつでも落とすと進級できない仕組みになっていた。被上告人は、宗教上の理由から剣道実技を拒否したところ、進級拒否処分となり、2年続けて進級拒否となった結果、成業の見込みがないとして退学命令処分となった。

  被上告人から進級拒否処分及び退学命令処分の取消し等を求めた。

3 裁判所は何を認めたか?

  被上告人勝訴

  高等専門学校の校長には進級拒否処分や退学命令処分について教育的裁量権があり、裁判所がその適否を判断する場合は、校長の立場に立って判断するのではなく、その判断が事実上の基礎を欠くないし社会観念上著しい妥当性を欠く場合に裁量権を逸脱した違法があるとされるが、被上告人は、信仰上の理由による剣道実技の履修拒否の結果として、原級留置、退学という事態に追い込まれたものというべきであり、その不利益が極めて大きく、他の科目では成績優秀であったにもかかわらず、履修拒否の理由を調査せず、代替措置も講ずることなく行われた各処分は裁量権の範囲を超える違法なものである。

4 コメント

  津市地鎮祭最高裁大法廷判決(昭和46(行ツ)69)の5名の裁判官の反対意見の中の特に藤林益三裁判官の補足反対意見に現れた「宗教的少数者の人権」の考え方が浸透した判決であると思います。

判例

平成7(行ツ)74  進級拒否処分取消、退学命令処分等取消
平成8年3月8日  最高裁判所第二小法廷  判決  棄却