【老齢年金:老齢年金(国民年金の老齢基礎年金及び厚生年金の老齢厚生年金)の減額改定を争った事件】

1 ポイントは何か?

  本件は、厚生労働大臣による老齢年金(国民年金法上の老齢基礎年金及び厚生年金保険法上の老齢厚生年金)の平成25年以降の年金額減額決定の効力が争われ、年金受給者が敗訴した事件である。

2 何があったか?

  老齢年金制度においては昭和48年から物価スライド制がとられている。もっとも、平成12年度以降は特例法により、平成11年度の水準に据え置かれた結果、平成14年には、特例水準が物価スライド水準と比べ1.7パーセント高くなった。

平成16年法により物価スライド制が廃止され、「マクロ経済スライド制」が導入されることになった(平成16年改正法による改正後の国民年金法16条の2、27条の4及び27条の5並びに厚生年金保険法34条、43条の4及び43条の5)。これは賃金、物価、被保険者数変動率、平均余命伸び率、収支均衡などを考慮して年金額支給基準を決めるという制度である。ただし特例水準を据え置く経過措置もおかれた。

しかし、物価下落により、平成23年には特例水準が物価スライド水準と比べ2.5パーセント高くなった。少子高齢化の予想以上の進展と収支均衡の悪化の政府レポートも公表された。

平成24年改正法により、平成27年までに段階的にこの差を解消することになった。

それに基づいて厚生労働大臣が老齢年金額を平成27年以降減額する決定をした。

年金受給者がこの決定を争い提訴した。年金受給者は憲法25条(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利の保障。社会福祉、社会保障、公衆衛生の向上及び増進の努力。)及び同29条(財産権の保障)違反を主張した。

3 裁判所は何を認めたか?

   年金受給者側が敗訴。

   憲法25条の解釈として、国の政策の方向性を示したものであり、個々の国民の最低限度の生活を具体的に保証する義務を定めたものではない。法律で一旦具体的な年金額を定めたら、それを減額することはできないという解釈は成り立たない。少子高齢化を前提として、世代間の公平に配慮したうえでの年金制度維持のためにやむを得ない決定であり、国会の裁量権に逸脱濫用はないとする。

4 コメント

  年金水準は、どのように維持されるべきか。また年金財源をどのように確保すべきか。難しい問題である。しかし、年金水準の設定において、憲法25条の最低限度の生活維持と、社会福祉、社会保障、公衆衛生の向上及び増進の努力から逃げてはならないという議論は大前提ではないか。裁判所はその点を正面から検討し、国会の議論を監視すべきではないか。国会の広範な裁量は、この大前提を外せば権限の逸脱、濫用になりうる。財源確保の問題については、他に無駄な国費はないかを検討しなければならない。今、世界中に軍備を持たない国が増えている。これは個々の国民生活を第1に考えた結果ではないか。日本は、グローバル・サウスの諸国の政策を見習うべきである。

判例

令和4(行ツ)275  年金減額改定決定取消、年金減額改定決定取消等請求事件

令和5年12月15日  最高裁判所第二小法廷  判決  棄却  大阪高等裁判所