法律事務所(事務員解雇)事件
名古屋高裁平成17年2月23日判決=一部認容
労働判例No.909、67頁、
1審名古屋地裁平成16年6月15日判決=棄却
最高裁平成17年6月30日決定=棄却・不許可
1 ポイントは何か?
解雇か、退職勧奨後の合意解約による退職か。
2 何があったか?
Xは、Y弁護士の法律事務所に約10年間勤務したが、Yと同じ弁護士会所属のZ弁護士と結婚することをYに伝えたところ、Yは自分の依頼者が個人情報の秘密保持に不安を感じることを理由にXに退職を勧奨した。Xは、合理的理由がなく解雇されたとして逸失利益として6か月分の賃金相当額と2か月分の賞与相当額並びに慰謝料の合計約486万円を請求した。
3 裁判所は何を認めたか?
- 1審の判決では、解雇ではなく合意解約であるとしてY勝訴、X敗訴とした。
- Xが控訴。高裁は1審判決を変更し、YがXを解雇したとして、Yに対し、逸失利益3か月分の賃金相当額、慰謝料および弁護士費用の合計約144万円をXに支払うよう命じた。
- Yが上告。最高裁はY敗訴とし、高裁の判決が確定した。
4 コメント
弁護士と事務員は、雇用契約において実質的に対等な関係とは言えない。だから解雇は、労働契約法16条により、合理的理由がなく社会通念上相当と認められない場合は権利濫用で無効であるとされるのに、合意解約の場合は、契約自由の原則により合理性や社会通念上相当な理由は必要なくなるのか。合意解約も実質的な解雇だとして労働契約法16条を類推適用するという考え方もありえたのではないか。契約自由から契約正義へという大きい流れで考えると、解雇か合意解約かでこれほど結論に差がある裁判の在り方でいいのか。解雇にせよ合意解約にせよ、結婚退職が実質的に強制される事態には疑問を感じるべきである。