【建物賃貸借契約:貸主から原状回復費用等請求、1審、2審】

第1審 東京簡裁令和2年1月21日判決

第2審 東京地裁令和3年1月21日判決(変更、確定)

    判例時報2519号52頁

1 ポイントは何か?

貸主は、原状回復費用、更新事務手数料を請求できるか。

借主は、敷金返還請求権があるか。

2 何があったか?

建物の賃貸借契約(ペット可)の貸主Xが期限到来前に合意更新手続をとろうとして更新契約書を借主Yに送ったが、Yがこれに応じず、法定更新となった。

その後、Yが解約し、退去した。

XからYに敷金の返還はしていない。

XからYに対し、原状回復費用約7万8390円及び民法所定の年5%の遅延損害金、並びに、特約に基づく敷金の半額相当の更新事務手数料3万9500円及び遅延損害金年14.6%を請求し、裁判を提起した。

Yは、原状回復費用の請求については通常損耗、自然損耗の範囲内であるとし、更新事務手数料については、消費者契約法10条違反であるとして争った。

3 裁判所は何を認めたか?

第1審判決は、Yの請求のうち、通常損耗、自然損耗か人為的損耗か断定できない損耗の修理費の35%、2万6248円及び年5%の遅延損害金のみ認めた。その余は棄却。更新事務手数料については、法定更新の場合にも事務手数料を請求することは、消費者契約法10条違反であるとして、すなわち、信義則に反し、消費者の利益を一方的に害するものとして無効と認定した。

第2審判決は、第1審が認めた原状回復費用2万6248円及び年5%の遅延損害金のほか、更新事務手数料更新事務手数料3万9500円及び遅延損害金年14.6%についても、Xの請求通り一定の事務を行ったことを認め、認定した。

Yは、2審で敷金返還請求権との相殺を主張したようであるが、裁判所は、Yがペットを飼っていたので、ペット特約とセットの敷金当然償却条項により、償却済であるとした。

4 コメント

人為的な消耗についての原状回復義務の計算方法がよくわかる裁判例である。借主の故意・過失による人為的損耗であれば不法行為損害賠償請求権が成立し、人為的か自然的か明らかでないものは特約に基づき原状回復義務が認められる場合とそうでない場合がある。

法定更新の場合も更新料を支払う特約は、賃料の1か月分程度であれば認められるであろう。

更新事務手数料の特約は、信義則違反の程度により、消費者契約法10条が適用され、無効となる場合もあるだろう。このような特約による請求は権利濫用にあたるという考え方もあるだろう。

敷金の返還も、ペット条項とセットでの当然償却特約により、返還を求められない場合もある例があるということがわかった。

  

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