【懲戒解雇無効:旅費等不正受給100回の事例】

地位確認等請求控訴事件(日本郵便事件)

札幌高裁令和3年11月17日判決

(労働判例No.1267,74頁)

1 ポイントは何か?

  • 懲戒権の濫用の有無。
  • 未払給与等の計算方法。

2 何があったか?

XはY社との労働契約に基づき広域インストラクターとして働いていた。Xは、旅費等をYから不正に受給し、100回、合計金額約195万円に上った。Yは、Xを懲戒解雇に処した。

Xは、これを懲戒権の濫用として争い、未払給与等を請求する労働審判を地方裁判所に申立てた。

3 裁判所は、何を認めたか?

  • 労働審判委員会は、迅速・適正な解決のため、労働審判手続を終了とし、これによりXが地方裁判所に正式の訴訟を提起したものとみなされ(労働審判法24条1項、2項)、労働審判から訴訟手続に移行した。
  • 地裁判決では、X敗訴。賃金仮払仮処分申立事件もX敗訴。
  • Xが控訴した。札幌高裁判決では、X勝訴。賃金仮払仮処分抗告事件もX勝訴。

その理由は、次の通り。

懲戒解雇の処分は、懲戒権の濫用であり無効とし、XがYに対し雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認した。

Xの不正受給分の使い道が、X個人の飲食等ではなく、Yのインストラクターとしての仕事のためであったこと、Xと同時に懲戒処分を受けたX以外のインストラクターで、最も重かった処分が停職3か月であったこと、および、Xが始末書も書いてYに提出しており、不正受給額全額をYにすでに返還していたことなどが斟酌された。Xの未払給与、および、未払賞与の請求については、昇給予定分を除いて、ほぼ認められた。

休業手当については、未払給与と重複するとして認められなかった。

付加金の請求については、通常は未払給与等と同額が認められるが、本件では、YがXに対する賃金の仮払仮処分抗告事件で認められた金額の仮払を継続していたので、付加金の支払を命ずることは不相当として、認められなかった。

YがXに支払っていた解雇予告手当については、X自身が、請求した未払給与からあらかじめ控除していた。

Xが、裁判中に他で働いて得た給与などの中間収入については、未払給与等から控除された。

Xの訴訟費用負担割合は5分の1であった。したがって、Xの勝訴割合は5分の4程度である。

4 コメント

労働審判委員会が、労働審判により、迅速、的確に審判を下すことはできなかったのだろうか。

Xの100回、合計約195万円の旅費等の不正請求は、刑法上の詐欺罪に当たることも考えられるので、刑事処分を受け、かつ、懲戒解雇相当と認定される場合もありえたと思われる。しかし、他の事情も酌量されて、懲戒解雇処分は権利濫用となった。

未払給与等の計算において、Xが所属する労働組合がYと協定していたベースアップの適用は認められたが、XとYの間に、Xについて懲戒事由が存在することに争いはなかったので、Xに特に問題がない場合の号俸の昇給分は認められなかった。

不法行為、及び、付加金の否認は、Yにも配慮した大岡裁きともいえようか。

 

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