【中小企業:製造委託取引における信頼関係が争われた事件】

損害賠償請求事件
甲府地裁平成27年10月6日判決
(判例時報2292号70頁)

1 ポイントは何か?

  • 製造委託取引における委託者と受託者の信頼関係とは。
  • 契約締結前の市場調査の重要性。
  • 損失の公平な分担方法とは。

2 何があったか?

Y社は、国内の雑穀市場の34.7%を占有する大手食料品製造加工販売等の業者で
ある。X社は、Y社と平成16年に雑穀製品の製造委託基本契約(以下、「本件基本
契約」という。)を締結した、雑穀類の加工販売等の業者である。
なお、本件基本契約は、年度ごとの個別委託契約ではなく、また、個別委託契約の締
結を強制するものでもない。
Y社は、X社に対し、雑穀類の拡大販売計画書(以下、「本件販売計画書」とい
う。)で、むこう3年間の新商品の予想販売重量及び金額を提示して、必要となる包
装機械等をX社に設置できるか、検討を依頼した。Y社には、Y社が、同機械等を購
入して、X社に有償で設置する考えもあった。

X社は、Y社が本件販売計画書を提示したことで、3年間の個別の製造委託契約が締
結されたものと考えて、Z社から、包装機械及び周辺器械等(以下、「本件機械等」
という。)を代金9906万2066円で購入した。
X社は、Y社がコマーシャルを行うことを信頼して、独自の市場調査分析は行わな
かった。

しかし、Y社のX社に対する発注は、計画通りには行われず、途中、本件基本契約に
ついての覚書も交わされたが、6年後には、Y社の通告により、取引が停止した。

X社は、Y社を被告として、本件機械等の購入代金相当額の金9906万2066円
の損害賠償請求訴訟を提起した。
X社は、Y社に、個別製造委託契約違反の債務不履行、ないし、信義則上の注意義務
違反の債務不履行、又は、不法行為責任があると主張した。

Y社は、個別製造委託契約は存在せず、同契約を締結すべき信義則上の注意義務違反
もないと主張した。

3 裁判所は何を認めたか?

裁判所は、Y社とX社との間の、個別製造委託契約は認めなかった。
しかし、Y社のX社に対する、信義則上の注意義務違反による不法行為責任を認め、
X社の被った損害が、本件機械等の購入代金相当額の金9906万2066円である
ことを認めた。
しかし、本件包装機械等の中古価格は2000万円を下回ることはないと推認し、こ
れを損害額から差し引くべきものとした。
また、X社が、Y社の拡大販売計画を鵜呑みにして、独自に市場調査を行わず、本件
機械等の購入を決定したことを、X社の過失とし、過失割合を2分の1と認定し、過
失相殺した。
そして、Y社からX社に支払うべき損害賠償金を、金3953万1033円とした。

4 コメント

Y社の雑穀市場占有率から考えて、X社が、Y社の新商品の拡大販売計画を鵜呑みに
したことも理解できるが、独自の市場調査を行っていれば、Y社の申出を、慎重に検
討するインセンティヴとなった可能性もある。

本件機械等については、X社が独自に購入することは止めて、Y社が購入して、X社
に有償で設置する計画を受入れることもできた。

また、X社が、Y社に対し、事前に、個別製造委託契約を締結するよう求め、その特
約として、次のようなことを定めておくこともできたのではないか。
万一、Y社が、計画通り発注できない場合は、X社の、本件機械等の使用料を無償と
し、かつ、X社の損失に備えて、Y社がX社に、保証金を支払うか、損害賠償額の予
定をすること、さらには、X社が、Y社の同意なしに、本件機械等を売却して、損失
に填補することができること等である。