【刑事;ベトナム人技能実習生の死体遺棄事件→最高裁で無罪判決】

1 ポイントは何か?

⑴ 死体遺棄罪の保護法益、及び遺棄の意味

⑵ 量刑

⑶ 外国人労働者の雇用

⑷ 外国人労働者の保護

 

2 何があったか?

⑴ 来日

Yは、平成30年8月に技能実習生として来日し、農園で働き、令和2年11月11日からは、一人で生活していた。

⑵ 妊娠

Yは、同年7月頃、妊娠していることを知った。運営会社の代表者や監理団体の職員には、妊娠していない旨答えていた。

⑶ 死産、死体遺棄

Yは、同月15日午前9時頃、自宅の自室で双子の本件嬰児を出産したが、いずれもYの体外に出てから1、2分後には死亡した。

Yは、本件各嬰児の死体をタオルで包んだ上で茶色の段ボール箱に入れ、その上に別のタオルを被せ、更にその上に手紙(Yが付けた名前、生年月日、お詫びの言葉、ゆっくり休んでくださいという趣旨の言葉)を置き、封をした上で、白色の段ボール箱に入れて封をし、自室の棚の上に置いた。

⑷ 産婦人科受診

Yは、同月16日、監理団体の職員に連れられて産婦人科を受診し、「産んだ後に埋めた」などと話し、医師が警察に通報した。

⑸ 捜索

同月17日午後2時10分から午後8時15分までの間、Y宅の捜索が行われ、本件各嬰児の死体が発見された。

 

3 裁判所は何を認めたか?

⑴ 1審

懲役8月、3年間執行猶予(検察官の求刑は、懲役1年)

(犯罪事実)

Yは、出産した嬰児2名の死体を、段ボール箱に入れた上、自室に置き続けた。 

(事実認定の補足説明)

ア 遺棄

遺棄とは、一般的な宗教的感情を害するような態様で死体を隠したり、放置したりすることで、Yの行為はそれにあたる。

イ 故意

Yに、愛情や埋葬の意思があったとしても、正常な埋葬のための準備とは言えず、一般的な宗教感情を害することは容易にわかったはずであるから、死体遺棄の故意があった。

ウ 期待可能性

Yは、死産で精神的にもショックを受けていたが、周りの人に出産や死産を告白し、助力を求めることはできたはずであり、適切な葬祭義務を果たす期待可能性があった。

(量刑事情)

ア 送金

Yは、収入の多くをベトナムの家族に送金していた。

イ 厳しい環境

わが国には、実習生の妊娠をサポートする制度もなく、厳しい環境であった。

ウ 程度

Yの行為は、周りの宗教的感情や平穏を害する程度が大きいとはいえない。

⑵ 2審

懲役3月、3年間執行猶予

(事実認定について)

ア 保護法益を害するものであるかどうか

遺棄罪の遺棄に当たるかどうかは、保護法益である死者に対する一般的な宗教的感情や敬虔感情を害するものであるかどうかを検討する必要がある。

イ 作為としての遺棄に当たるか

Yが、現にした行為は、葬祭を行う準備、あるいは葬祭の一過程として行ったものではなく、本件各嬰児の死体を隠匿する行為であって、他者がそれらの死体を発見することが困難な状況を作出するものであるから、死体遺棄罪の遺棄にあたる。

ウ 不作為としての遺棄に当たるか

死体の埋葬義務を行う者が、葬祭を行わないという不作為が、遺棄に該当するのは、同義務を履行すべき相当の期間内に行わなかった場合に限られると解するのが相当であり、Yの不作為は、遺棄に当たらない。

原判決には、作為としての遺棄と、不作為としての遺棄を合わせて死体遺棄罪としており、法令適用の誤りがあり、判決に影響を及ぼすことは明らかである。

⑶ 最高裁判所

無罪

刑法190条の「遺棄」とは、習俗上の埋葬とは認められない態様で死体等を放置しまたは隠匿する行為をいう。自室で出産し、死亡後間もない本件各えい児の死体をタオルに包んで段ボール箱に入れ、同段ボール箱を棚の上に置くなどした行為は、遺体を隠し、発見しにくくしたものだが、その態様自体がいまだ習俗上の埋葬等と相いれない処置とは認められない。

 

4 コメント

わが国の外国人技能実習生をサポートする制度は、妊娠に限らず、不十分であり、厳しい環境に置かれている実態があるので、日本政府は、早急に制度を整備し、外国人労働者を保護すべきである。

(外国人の雇用に関する厚生労働省HPの記事)

外国人の雇用 |厚生労働省 (mhlw.go.jp)

最高裁の逆転無罪判決は、「大岡裁き」とも言うべきでしょうか。よかったと思います。

死体遺棄被告事件

1審 熊本地裁令和3年7月20日

(裁判所HP裁判例検索)

090591_hanrei.pdf (courts.go.jp)

2審 福岡高裁令和4年1月19日判決

(判例時報2528号123頁、裁判所HP裁判例検索)

090904_hanrei.pdf (courts.go.jp)

最高裁判所令和5年3月24日第2小法廷判決

091943_hanrei.pdf (courts.go.jp)

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