「破産事件:破産管財人が銀行に対し破産者の預金の払い戻しを求めた事件」

1 ポイントは何か?

  銀行の融資金と預金の相殺権

2 何があったか?

 ⑴ A銀行がB社に融資をした。

 ⑵ B社は、A銀行に預金口座を開設していた。

 ⑶ A銀行は、B社の顧客からの同口座への入金を別段預金に振り替えたうえで、B社への融資金の弁済金に充当していた。

 ⑷ B社が破産し、破産管財人がA銀行を相手に別段預金の払い戻しを請求した。

 ⑸ A銀行は、融資金と別段預金とを相殺した。

3 裁判所は何を認めたか?

 ⑴ 破産管財人が敗訴した。

⑵ 裁判所は、A銀行の融資金と別段預金との相殺を認めた。

⑶ 別段預金への振替は、破産法71条1項2号で禁止される新たな債務負担行為には当たらない。

4 コメント

  この事件での裁判所の結論は、常識的で、妥当なものです。ですから、このような訴えは無駄であったかも知れません。しかし、破産管財人は、破産者の全債権者を代表する立場です。その任務に関し、理論的に考えてどうかというような問題があるときに、訴えを起こして裁判所で答えを得ることが必要な時もあると思います。この裁判例は、破産法71条1項2号という条文の機能に気づかせてくれました。

  ところで、私が思いますに、個人ないし法人が破産することは、破産法という法律で認められた「権利」です。この手続きを濫用することはいけませんが、正しく利用することは決して恥ずかしいことではありません。

参考: 渡辺博己先生(金融法)の「破産会社名義普通預金の別段預金への振替と相殺制限
東京地判令和4.11.9金判1666号23頁

以上