【刑事事件:三鷹事件最高裁大法廷判決】

最高裁判所大法廷 昭和26(あ)1688  電車顛覆致死、偽証
昭和30年6月22日 判決  棄却
原審 東京高等裁判所


1 ポイントは何か?


1 二重の結果的加重犯となる往来危険による電車転覆致死に刑法126条3
項を適用して無期または死刑判決を下すことができるか。
2 高裁は書面審理で地裁無期懲役判決を破棄自判で死刑判決を下すことがで
きるか。


2 何があったか?


三鷹事件は、昭和24年7月15日午後8時過ぎに国鉄三鷹電車区で7両編成
の無人電車が暴走し、車止めを突き破って線路わきの商店街に突っ込み6人が
死亡し、20人負傷した事件である。
検察官は、Aを含む数名の故意による電車転覆の結果6人が死亡し20名が負
傷した事件として電車転覆致死事件の共同正犯としてAら数名を共犯者として
起訴した。


3 裁判は何を認めたか?


東京地方裁判所はAの単独犯行としてAについて無期懲役の判決を下し、A以
外の被告人らは無罪とした。
検察官が控訴した。
東京高等裁判所は、Aについては書面審理のみで地裁の判決を破棄し死刑とす
る判決を下し、他の被告らについては控訴を棄却した。高裁判決は、Aが往来
危険罪(刑法125条)を犯しよって予期に反して電車を破壊し人を死に致ら
しめた事実を認定し、往来危険の罪の結果的加重犯としての往来危険による汽
車転覆等の罪(127条)、及び、汽車転覆等の罪の結果的加重犯としての汽
車転覆等致死罪(126条3項)を適用してAを死刑に処したものである。
Aが上告した。
Aの弁護人吉田三市郎外43名は、結果的加重犯(特に127条の致死の場合
は二重の結果犯である)に対し死刑を定めたものとする127条は、憲法13
条並びに残虐な刑罰を禁止する同36条に違反するものであると主張した。
また、弁護人井本台吉、及び草野治彦は、東京高裁がAに対し東京地裁の言渡
した無期懲役刑の量刑の当否を判断するに当り、東京高裁が何等新たな事実の
取調をしないで量刑軽きに過ぎるとして東京地裁判決を破棄した上、刑訴
400条但書により自判して死刑を言渡したのは、刑訴法の精神に反し違法で
あるのみならず、かかる手続により死刑を科することは個人の生命の尊貴を忘
れたものであり、かかる裁判は公平な裁判所の裁判ということはできないもの
であつて、憲法13条、31条、及び、37条1項に各違反すると主張した。
しかし、最高裁判所は、Aの上告を棄却した。
この最高裁判決には弁護人らの主張に沿う裁判官栗山茂、同真野毅、同島保、
同藤田八郎、同谷村唯一郎、同小谷勝重、同小林俊三らの少数意見がある。少
数意見が弁護人の主張と異なる点は、127条の「前条の例による」とは
、126条1項及び2項のみを指し、同条3項は除外されるとする点である。
交通往来危険行為を犯した結果電車転覆を生じ(第1の結果)その結果死傷を
生じた(第2の結果)場合に、刑法127条によって同法126条3項を適用
することは、過失往来危険罪(刑法129条)の行為の結果人が死傷した場合
には過失致死傷(刑法209条~211条)が併せて適用されることと較べて
刑のバランスを著しく失するという。また、高等裁判所には書面審査だけで地
方裁判所の判決を破棄し、被告人に不利益な判決を下す権限はないのであり、
そのような場合に被告人の人権を守るためには、地方裁判所に差し戻すほかな
いという。


4 コメント


私は、本件最高裁判決は妥当ではないと考え、弁護人と裁判官の少数意見に賛
成する。

二重の結果犯の処罰については、上記の例以外に、例えば⑴暴行の意思で傷害
の結果を生じ、またその結果致死の結果を生じた場合に205条の傷害致死罪
を適用してよいか、又、⑵窃盗の共犯者が強盗をし、またその結果人を死傷さ
せたという場合に、他の窃盗共犯者に刑法240条の強盗致死傷罪を適用して
良いかという問題がありうる。