【特許事件:アトピー性皮膚炎の治療方法の特許権を争った事件】

令和5(行ケ)10019    特許権  行政訴訟
令和6年8月7日  知的財産高等裁判所

アトピー性皮膚炎関連バイオマーカー

1 ポイントは何か?


臨床試験とバイオマーカーの低下の一致。

2 何があったか?


日本の製薬会社A社が外国の製薬会社B社が取得した特許権の無効の審判を特許庁に求め
たが、特許庁はB社の訂正を受け入れ、A社の請求を成り立たないとした。A社が裁判所に
特許庁の審判の取消を求めた。
A社は本件審決の取消事由として、 (1)進歩性についての判断の誤り、(2) サポート要件違
反、 (3) 実施可能要件違反等を主張した。

3 裁判所は何を認めたか?


裁判所は、Aの請求を棄却した。

4 コメント


バイオマーカーによる薬効の補助的確認がなされたもの。

5 バイオマーカーに関する記述部分の抽出


本判決には、特に、臨床試験とバイオマーカーの低下の一致について、次のような記載が
ある。
(10頁15行)実施例12では、同じ対象について、アトピー性皮膚炎のバイオマーカ
ーであり、重症度を反映して上昇することが知られているTARC(甲8、10)及び同じ
くアトピー性皮膚炎のバイオマーカーである総IgE(甲10、【0442】)の低下を確
認し、臨床症状の改善と矛盾のない結果を得ているといえる。


(40頁7行)本件においては、①mAb1は、抗IL 4Rアンタゴニスト抗体であって
、IL-4Rに結合し、IL-4のシグナルを遮断する作用を有するものであること
、②mAb1が投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善したこ
と、③mAb1が 投与された本件患者では、アトピー性皮膚炎のバイオマーカーであり
、IL-4によって産生・分泌が誘導されることが知られているTARC及びIgEのレベルが
低下したことが開示されていることから演繹的に導かれる推論 として、本件患者にmAb1
を投与した際のアトピー性皮膚炎の治療効果は、 mAb1のIL-4Rに結合しIL-4を遮断
する作用、すなわち、アンタ ゴニストとしての作用により発揮されるものと理解されるも
のであって、課題を解決できると認識できる範囲が幅広い実施例から帰納的に導かれる場
合とは異なる。上記作用機序は、本件抗体の一つであるmAb1がIL-4R に結合し
、IL-4のシグナルを遮断する作用を有するものであり、mAb1が投与された本件患者で
は、アトピー性皮膚炎における臨床症状が改善し、アトピー性皮膚炎のバイオマーカーも
低下したのであるから、mAb1以外の抗IL-4Rアンタゴニスト抗体である本件抗体等
(mAb1以外の32種)も同様の作用効果を有すると当業者が理解できることは明らかで
ある。本件明細書に開示された薬理試験結果はmAb1に関するもののみであるとの原告の
指摘は、上記認定判断を左右するものではない。


(51頁22行)【0049】 本発明は、IL-4Rアンタゴニストを含む治療組成物を、そ
れを必要とする対象に投与することを含む方法を含む。本明細書で用いられる表現「それ
を必要とする対象」は、アトピー性皮膚炎の1つもしくはそれ以上の症状もしくは徴候を
示す、および/またはアトピー性皮膚炎と診断されたヒトまたは非ヒト動物を意味する。
ある特定の実施形態においては、本発明の方法を用いて、1つまたはそれ以上のAD関連
バイオマーカー(本明細書の他の場所に記載される)のレベルの上昇を示す患者を処置す

ることができる。例えば、本発明の方法は、IgE またはTARCまたはペリオスチンのレ
ベルが上昇した患者にIL-4Rアンタゴニストを投与することを含む。いくつかの実施形
態においては、本明細書の方法を用いて、1歳以下の子供におけるADを処置することが
できる。例えば、本発明の方法を用いて、1カ月未満、1カ 月、2カ月、3カ月、4カ月
、5カ月、6カ月、7カ月、8カ月、9カ月、10カ月、11カ 月または12カ月未満の
月齢である幼児を処置することができる。他の実施形態においては、 本発明の方法を用い
て、18歳以下である子供および/または青年を処置することができる。 例えば、本発明
の方法を用いて、17歳未満、16歳、15歳、14歳、13歳、12歳、1 1歳、10
歳、9歳、8歳、7歳、6歳、5歳、4歳、3歳、または2歳未満の年齢の子供ま たは青
年を処置することができる。


(52頁12行)【0050】 本発明の文脈において、「それを必要とする対象」は、処
置の前に、例えば、上昇したIGA、BSA、EASI、SCORAD、5D-掻痒感、および/もし
くはNRSスコアなどの 1つもしくはそれ以上のAD関連パラメータ、ならびに/または例
えば、IgEおよび/もしくはTARC(本明細書の他の場所に記載される)などの1つもし
くはそれ以上のAD関連バイオマーカーの上昇したレベルを示す(または示した)対象を
含んでもよい。ある特定の実施形態においては、「それを必要とする対象」は、ADによ
り罹りやすい集団のサブセットを含んでもよく、またはAD関連バイオマーカーのレベル
の上昇を示してもよい。例えば、「それを必要とする対象」は、集団中に存在する人種ま
たは民族により定義される集団のサブセットを含んでもよい。
(60頁21行) 【0084】 アトピー性皮膚炎関連バイオマーカー 本発明はまた、AD関連
バイオマーカーの使用、定量、および分析を含む方法を含む。本明細書で用いられる用語
「AD関連バイオマーカー」は、非AD患者において存在するか、また は検出可能であるマ
ーカーのレベルまたは量とは異なる(例えば、それより高いか、または低い)レベルまた
は量でAD患者において存在するか、または検出可能である任意の生物学的応答、細胞型
、パラメータ、タンパク質、ポリペプチド、酵素、酵素活性、代謝物、核酸、炭水 化物、
または他の生体分子を意味する。いくつかの実施形態においては、用語「AD関連バイオ
マーカー」は、2型ヘルパーT細胞(Th2)誘導性炎症と関連するバイオマーカーを含む
。 例示的なAD関連バイオマーカーとしては、限定されるものではないが、例えば、胸腺
および活性化調節ケモカイン(TARC;CCL17としても知られる)、免疫グロブリン
E(Ig E)、エオタキシン-3(CCL26としても知られる)、乳酸デヒドロゲナーゼ
(LDH)、 好酸球、抗原特異的IgE(例えば、Phadiatop(商標)試験)、およびペ
リオスチンが挙げられる。用語「AD関連バイオマーカー」はまた、ADを有さない対象と
比較してADを有する対象において示差的に発現される当業界で公知の遺伝子または遺伝
子プローブも含 む。例えば、ADを有する対象において有意に上方調節される遺伝子とし
ては、限定されるも のではないが、2型ヘルパーT細胞(Th2)関連ケモカイン、例えば
、CCL13、CCL 17、CCL18およびCCL26、表皮増殖のマーカー、例えば
、K16、Ki67、なら びにT細胞および樹状細胞抗原CD2、CD1b、およびCD1cが挙げ
られる(Tintl eら、2011;J.Allergy
Clin.Immunol.128:583~593 頁)。あるいは、「AD関連バイオマーカー」は
また、最終分化タンパク質(例えば、ロリクリン、フィラグリンおよびインボルクリン)
のようなADに起因して下方調節される遺伝子も含 む(Tintleら
、2011;J.Allergy Clin.Immunol.128: 583~593頁)。本発明のある
特定の実施形態は、IL-4Rアンタゴニストの投与を用 いる疾患の好転をモニタリングす
るためのこれらのバイオマーカーの使用に関する。そのよう なAD関連バイオマーカーを
検出および/または定量するための方法は、当業界で公知である;そのようなAD関連バ
イオマーカーを測定するためのキットは様々な商業的供給源から入手可能である;ならびに様々な臨床検査会社も同様にそのようなバイオマーカーの測定を提供するサービスを提
供している。


【0085】 本発明のある特定の態様によれば、(a)疾患状態を示す処置の前に、また
は処置の時点で 少なくとも1つのAD関連バイオマーカーのレベルを示す対象を選択する
こと;および(b)該対象に、治療上有効量のIL-4Rアンタゴニストを含む医薬組成物を
投与することを含む、 ADを処置するための方法が提供される。ある特定の実施形態にお
いては、AD関連バイオマーカーのレベルが上昇するかどうかを決定することにより、患
者を選択する。当業界で公知の*バイオマーカーアッセイ*のために患者から試料を獲得
することによって、AD関連バイオマーカーのレベルを決定または定量する。ある特定の
実施形態においては、患者からAD関連 バイオマーカーの上昇したレベルに関する情報を
獲得することによって、患者を選択する。本発明のこの態様のある特定の実施形態におい
ては、対象を、IgEまたはTARCまたはペリオスチンの上昇したレベルに基づいて選択す
る。
(63頁4行) 【0088】別のAD関連バイオマーカーは、抗原特異的IgEである
。Phadiatop(商標)は、 アレルギー感作のスクリーニングのために導入された血清
特異的または抗原特異的IgEアッセイ試験の商業的に入手可能な変異型である
(Merrettら、1987、Allergy 17:409~416頁)。この試験は、一般的な吸
入アレルギーを引き起こす関連アレルギーの混合物に対する血清特異的IgEに関する同時
試験を提供する。この試験は、得られる蛍光応答に応じて陽性または陰性のいずれかであ
る定性的結果を与える。患者試料が参照よりも高いか、またはそれと同等である蛍光応答
を与える場合、陽性の試験結果が示される。より低い蛍光応答を有する患者試料は、陰性
の試験結果を示す。本発明は、陽性の試験結果を示す対象を選択すること、および該対象
に、治療上有効量のIL-4Rアンタゴニストを投与することを含む方法を含む。
(63頁26行) 【0091】本発明の他の態様によれば、対象に、治療上有効量の
IL-4Rアンタゴニストを含む医薬組成物を投与することを含み、該対象への医薬組成物
への投与が、医薬組成物の投与前の対象におけるバイオマーカーのレベルと比較して、投
与後のある時点で少なくとも1つのAD関連 バイオマーカー(例えば、IgE、TARC、好
酸球、エオタキシン-3、抗原特異的IgE、LDHなど)の低下をもたらす、ADを処置す
るための方法が提供される。


【0092】 当業者によって理解されるように、AD関連バイオマーカーの増加または低
下を、(i)I L-4Rアンタゴニストを含む医薬組成物の投与後の規定の時点での対象に
おいて測定された バイオマーカーのレベルを、(ii)IL-4Rアンタゴニストを含む医薬
組成物の投与前前の 患者において測定されたバイオマーカーのレベル(すなわち、「ベー
スライン測定値」)と比較することにより決定することができる。バイオマーカーが測定
される規定の時点は、例えば、IL-4Rアンタゴニストを含む医薬組成物の投与後約4時
間、8時間、12時間、1日、2 日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10
日、15日、20日、35日、40日、 50日、55日、60日、65日、70日、75
日、80日、またはそれ以上の時点であってもよい。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人